具材を自由にアレンジ
宗教的な制約にも対応できる
2024年パリ五輪で銀メダルを獲得したフランスの柔道代表ルカ・ムケイゼ選手は、「おにぎりは体の燃料だ。一日中パフォーマンスを維持できる」と語った。東京大会で初めて口にして以来すっかり魅了され、練習や試合の合間にも欠かさず食べるようになったという。
トップアスリートが実践する姿は、一般のフランス人にとっても、おにぎりは「健康的で頼れる軽食」という印象を強めることになった。
また、具材を自由にアレンジできるので、グルテンフリーやヴィーガン、宗教的な制約にも対応することができることも大きなメリットである。移民の多いフランスでは、イスラム教徒やユダヤ教徒など食べられない食材がある人も少なくない。おにぎりは具材を入れ替えるだけで対応できる柔軟さがあり、そのため幅広い人々に受け入れられている。
次に、その利便性である。片手で食べられ、冷めても美味しい。カトラリーも不要で、オフィスや公園、移動中でも手軽に食べられる。
そして最後に、日本文化への親しみ。フランス人はアニメや漫画など日本のカルチャーを愛する人が多く、作品に登場するおにぎりのイメージはフランス人にとっても馴染み深い。
もともと強い日本食への関心もあり、オペラ地区にある日本食街では、ラーメン、焼き鳥、うどん、抹茶スイーツまで揃う。そうした土壌があったからこそ、素朴なおにぎりも市民権を得たのだろう。
スーパーや家庭では
イタリア産のお米を使用
お米の供給体制としては、専門店では日本米を空輸している店がある一方、スーパーや家庭ではフランス南部カマルグ産やイタリア産の短粒米が多く使われている。
日本米はアジア系スーパーで手に入るが、普通のスーパーでも手に入りやすいイタリア米など欧州の米を日本風に炊いて家庭でおにぎりを作る人が多い。フランス人家庭でもおにぎりは作られており、SNSには、ツナやアボカド、生ハムなどを使ったアレンジが投稿されている。
家庭料理としても、ピクニックでも、簡単なランチでも……。日本発のおにぎりは、フランス・パリでブームを越え、いまや日常の一部となっている。パンの国であるフランスで、おにぎりを片手に街中を歩く。至る所で頬張られるその姿が、この街の新しい風景になっている。