「婿様をもらいましょうか」大人トキ・高石あかりの「達観した瞳」に“生命力と覚悟”を見た〈ばけばけ第5回〉

「おなごが生きていくには身を売るか、男と一緒になるしかない」

 傅はカステラに毒を仕込むようなひどい人ではない、はず。

 女子たちは「生きててよかった」と大喜び。傅はフミ(池脇千鶴)にもカステラを託す。

 カステラを持ってトキが帰宅したのは、天国町にある松野家。借金を負ったため、城下町にあった以前の家から橋を渡って、商人や貧しい者が住む町へと引っ越していた。

 司之介(岡部たかし)は牛乳配達の仕事をしている。一応、働いているようでよかった。

 帰ってきた司之介とトキは「疲れた自慢」をし合う。どんなに貧しくても、どんなに働き疲れても松野家は楽しくやっているようだ。いや、これは空元気。

 天国という町の名前で思い出すのはテネシー・ウィリアムズの名作『欲望という名の電車』。「欲望」という名の電車に乗り「墓場」という名の電車に乗り換え「天国」という名の駅に着く。上流階級の娘だったブランチが、落ちぶれて労働者たちの街にやってくるお話だ。金縛りが娯楽や「借金長者」もそうだけれど、意味を反転させることで生きる力に変えていくというやり方がある。

 トキとフミはもらったカステラを立てて、「お墓みたい」と笑う。天国と墓場は繋がっている。

 外に出ると川がすぐそばを流れている。大きな川の向こうに城が小さく見える。ずいぶん、城が遠くなった。でも、空は水彩画のようにグラデーションをつくって美しい。

 トキの家のある長屋のそばには遊郭があって、三味線の音がけだるく聞こえてくる。

 トキの幼なじみ・サワ(円井わん)もこの地に住んでいる。教師になって貧しい状況を打破しようと考えたものの、実現は遠い。彼女はここの眺めがいいとは思っていない。外から見ればきれいに見える川と空の風景も、ずっと見ている人たちには忌々しいものに見えるのかもしれない。

 酔っ払いが共同洗い場で用をたそうとしている。食べ物を洗う場所で粗相をされる不快さ。

 この町に閉じ込められて出ていけないトキとサワに、遊女のなみ(さとうほなみ)は「おなごが生きていくには身を売るか、男と一緒になるしかない」と言う。

 やりきれない世界。令和の価値観だったらとんでもない考え方だが、そういうふうにしか考えられない時代もあった。

 トキたちがしじみがほとんど入っていないしじみ汁を食べていると、借金とりの森山(岩谷健司)がやって来た。

 このままでは「返済に200年」と言う森山に「なんとか100年以内には」と返すフミ。

 どんなときでもユーモアを忘れないので、しんどさが軽減するものの、もしも借金とりがまったくユーモアを返さない人物だったら、さぞ悲惨なことになっただろう。

 でもやっぱり森山がいい人なわけではなく、トキを遊郭に売ってはどうかと言い出す。

 朝ドラヒロインが身を売る立場に陥ることはこれまでなかったと思う。たいていは友人がその悲劇に遭っていた。つらい労働も妹たちが強いられ、ヒロインはなぜか悲劇から回避されてきた。

 今回は朝ドラヒロインが遊郭に?