間接侵略に対する備えと言われても、今の若い人にはわかりにくいかもしれないが、要するに治安維持だ。自衛隊の前身である警察予備隊や保安隊の主な役割は、進駐軍による治安維持機能を肩代わりするという性格が色濃かった。加えて、警察予備隊や保安隊の中央組織の幹部を務めたのは、旧内務官僚であった。
その多くは警察を担当していた官僚であり、警察と同様に一定の地域を担当する管区制が導入され、これが現在の5個方面隊に引き継がれている。つまり、革命運動やゲリラ攻撃を鎮圧する上でも、全国に部隊を配備する体制は都合がいいということになる。
災害救助という面でも
山川論には意義がある
さらに、山川論に基づく14区画は、災害救助という面でも意義がある。国民にとって、地震や大雨、豪雪などの被害で救難活動を行う自衛隊は心強く、これが自衛隊に対する理解にもつながる。災害派遣で主要な役割を果たすのが陸上自衛隊であることは言うまでもない。
こうした考え方を象徴的に示すのが、1977年の防衛白書だ。この前年に政府は防衛計画の大綱を初めて策定し、防衛力整備の基本的な考え方を網羅的に説明している。この大綱を踏まえた防衛白書には、こういう記述がある。
「このような観点から天災地変、その他の災害の発生に際して、迅速な救援活動を実施する等、民生の安定に寄与しうることも基盤的防衛力にとって重要である。/そのためには、原則として各府県に少なくとも1個連隊相当程度の陸上、海上又は航空自衛隊の部隊等を配置し、それらの要請に速やかに応えうる体制を備えていることが望ましい」
ここから読み取れるのは、陸上自衛隊の部隊編制のあり方は外敵からの侵略に備えるという要素だけではなく、自然災害から国民を守るという点が重視されているという事実である。ちなみに言うと、「各都道府県に少なくとも1個連隊」という原則は、実は未達成の目標である。奈良県には連隊規模の部隊が配備されておらず、唯一、航空自衛隊幹部候補生学校が所在するのみである。
このため、地元自治体から熱心な誘致活動が展開されている。彼らが自衛隊を呼び込みたい理由の一つが、万が一の災害の際に頼りになる部隊にいてほしいというものである。