自衛隊の部隊編成見直しを阻む
自然災害と人手不足という壁

 こうした山川論は強固な影響力を持つのだが、陸上自衛隊では部隊編制の大幅な見直しが検討されたことが何度もあった。特に見直しの対象となったのが5個方面隊だ。日本列島を北海道、東北、東部、中部、西部の5区画に分け、各方面隊が複数の師団・旅団を配下に収める体制が改められれば、14区画に師団・旅団を置く体制も見直されるきっかけになったかもしれない。

 だが、そうはならなかった。障壁となったのは、やはり自然災害対処だった。村山富市内閣が1995年に防衛計画の大綱を改定した際は東北方面隊を廃止し、陸上総隊を新設する話があった。しかし、この年1月に発生した阪神淡路大震災を踏まえ、「東北で大地震が発生したらどうするのか」という声に押されて東北方面隊の廃止も陸上総隊の新設も見送られることになる。

 陸上総隊の新設は、安倍晋三内閣が2013年に防衛計画の大綱を改定した際に盛り込まれたが、セットとして論じられてきた東北方面隊の統廃合は見送られた。これは、2011年に発生した東日本大震災の影響であることは言うまでもない。

 14区画に師団・旅団を置くという陸上自衛隊の基本的な考え方が無傷のまま生き残った理由は、これだけではない。自衛隊が新入隊員を募集するためにも、14区画の師団・旅団、あるいは各都道府県に少なくとも1個連隊規模の部隊を置く体制が必要不可欠であると考えられてきた。

 部隊が駐屯していれば、地元とのつながりもできる。このつながりを利用して、自衛官を募集する際に地元自治体などとの協力をスムーズにできるというわけだ。陸上自衛隊にかぎらず、自衛隊は慢性的な、それもかなり深刻な人員不足に悩んでいる。このため、募集をおろそかにすることはできない。

 しかも、自衛隊の中で圧倒的なマンパワーを誇るのは陸上自衛隊である。そうなると、募集のためにも山川論を基にして14区画に師団・旅団を置く体制は見直しが難しくなる。