働き盛りの2等陸佐に
デスクワークをさせるという損失

 山川論が維持されてきた理由として、これまで説明したものとは全く別の解釈もある。

 1個の師団や連隊の規模を小さくすればするほど、師団や旅団の数が増える。師団や旅団の数が増えれば増えるほど、師団長や旅団長の数も増えることになる。陸将なら師団長、1等陸佐なら連隊長といったように、階級に応じてふさわしいポストがあるため、人事制度上の配慮としても、師団や旅団の規模が小さければ小さいほど好都合だという解釈だ。

 ちなみに言うと、東京・市谷の陸上幕僚監部には海空の幕僚監部と比べ、多くの2等陸佐が在籍している。この理由は、普通科つまり歩兵部隊の大隊が欠落しているからだと言われている。どこの国の陸軍でも大隊を指揮するのは中佐、陸上自衛隊であれば2等陸佐と相場が決まっているのだが、陸上自衛隊の普通科には大隊が存在しない。なので当然、大隊長というポストもない。陸上自衛隊は、働き盛りの2等陸佐を集中的かつ長期間市谷の陸上幕僚監部や方面隊司令部でデスクワークさせるということになるわけだ。

 これは陸上自衛隊にとって大きな損失だ。2等陸佐といえば、40歳前後の脂が乗り切った年齢だ。この時期に部隊を指揮する経験を持つかどうかは、自衛官人生を大きく左右する。

 今日の地上戦闘では大隊という部隊そのものが戦闘の基本ユニットとなることが想定されるため、指揮官として欠くべからざる経験を積む場であるはずなのだ。特に、陸上自衛隊の戦闘力を左右する大隊指揮という、自衛官として最も重要な現場の実務につく機会が陸上自衛隊普通科の2佐には与えられないのだ。

 将来の陸上自衛隊を担うべき普通科に所属する陸上自衛官のほとんどがデスクワークで、自衛隊生活の最も大切な時期を過ごすのである。陸上自衛隊は、自らを精強な組織とするうえで最も大切な機会を失っているとさえ見える。