実際に効果も現れ始めている。ゲリラ豪雨を扱った企画では、「自宅にいるとき」「外を歩いているとき」に加えて、AIが「運転中に遭ったらどうするか」という切り口を提案してくれたという。

「ZIP!のディレクターやスタッフが素敵だなと思うのは、AIが出してきたものを正解とするのではなく、自分が面白いと思うことを起点に、より良くするためのツールとして使っていること。AI活用のあるべき姿だと思います」(八重沢さん)

個性のないディレクターは淘汰される

 近い将来、AIエージェントが現場に浸透したとき、ディレクターはどうなっていくのか。八重沢さんの予測は厳しい。

「個性がないディレクターは淘汰されていくと思います」

 特に危険なのは、量産型のアイデアだけで勝負してきたディレクターだという。「AIにプロンプトを投げれば似たようなアイデアにたどり着ける時代、『この人の考えることはAIでも代替できる』と思われるか、そうでないかが分かれ道。自分の武器は何か、何を面白いと思っているのか。僕自身、改めて考えさせられました」

 では、生き残るには――「AIに負けじと自分の武器を磨くこと。そして、やはり人間力ですかね。気遣いができる、チームにこの人がいるとうまく進む。そういう部分が、今よりもっと大事になってくると思います」

AIが人をより情熱的にする

 辻さんにも発見があった。

「八重沢さんは総合演出として非常に強い権限を持っています。自分の判断軸やノウハウを隠し、それを武器に個人のキャリアを築くこともできたはず。でも八重沢さんは、それを惜しみなくAIに学習させ、チーム全体に共有することで、みんなで良いコンテンツを追求する道を選んだ。自己実現よりもっと高いところを目指しているんだって」

 プロジェクトの途中でそれに気づいた辻さんは、八重沢さんの思いをどうしても形にしたいと思ったという。