固定観念を捨てた瞬間に見えたもの
ブレイクスルーとなったのは、八重沢さんの「AIの揺らぎって最大いくつまで出せるんですか?」という一言だった。
AIの「揺らぎ」とは、AIに同じ質問をしても、毎回わずかに違った答えが返ってくる現象を指す。一般的なAIプロジェクトでは、間違いがないように、この揺らぎをできるだけ小さくしようとする。しかし八重沢さんは、答えが一辺倒にならないように、揺らぎは大きい方がいいのだという。
「それって、個性……みたいなことですかね?」「そうそう、個性! 個性を育てたい」
「AIに正しさや効率化を求める中で、八重沢さんが『育てる』という概念をスパッと入れてくれた。それは八重沢さんだからこそ出てきた発想で、価値観が揺さぶられたというか、すごく刺激的でした」(辻さん)
辻さんは、ディレクターの「個性」を集め始めた。着目したのは、企画制作支援AIエージェントを使う中で「その人が何を指摘するか」だ。
あるディレクターは「タイトルをもっとキャッチーに」、別のディレクターは「データの真偽は確認した?」、また別のディレクターは「子ども目線で分かりやすく」と何度も繰り返した。そのディレクターが大切にする視点、こだわるポイントにこそ、個性がにじみ出ていたのだ。
「その人の判断軸を使えば使うほど、自分らしいAIエージェントに育っていくのがミソ」と辻さん。それが八重沢さんの求めた「個性を育てるAI」だった。

