「僕からすると、『八重沢の頭の中は1年たっても読み解けない』みたいなほうがカッコいいじゃないですか(笑)。それがもう2、3週間くらいで『あ、もうなんかちょっといいかもしれないです』みたいに言われて。『そんな簡単?』って」 

驚きつつも、うれしそうな八重沢さん Photo by M.S.驚きつつも、うれしそうな八重沢さん Photo by M.S.

 短期間で済んだのは、八重沢さんの企画選びにブレない軸があったからだ。「なぜ明日これを取り上げるのか」「視聴者にとってどれだけ実利があるか」そして「水卜アナウンサーの個性を生かせるか」。おかげで、八重沢さんの分析は1カ月足らずで完了したのだった。

「魂が乗らない」AIが作った熱中症企画に感じた物足りなさ

 早速、企画制作支援AIエージェントを使って試しに熱中症をテーマにした企画を考えてもらった。街頭インタビューをして、危険な気温をマップで示し、専門家に対策を聞く――悪くはない。だが、八重沢さんには物足りなかった。

「魂が乗ってないんですよね。『Geminiが判断した価値基準でいうと、これが正解ですかね』というだけで、そこにそのディレクターならではの面白味はない。画竜点睛を欠くというか。みんながこれを使い始めたら、みんな同じ企画を出してくるだろうなと」(八重沢さん)
 
 一般に、AIに期待されるのは時短や業務効率化だ。辻さんも当初は短時間で完成度の高い企画書を作ることをゴールに考えていた。しかし八重沢さんの反応を見て気づく。企画書はあくまでスタートであり、本当のゴールは面白いコンテンツを全国の視聴者に届けること。そのためのインスピレーションが欲しいのだと。