
「士族の小豆洗いはどうか」
「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を」
勘右衛門(小日向文世)は八重垣神社の和歌をそらんじる。
古事記に載った日本最古の和歌。スサノオがクシナダ姫を妻に迎えて出雲の地に新居を定めたときに詠んだ歌とされている。ちなみに、敏腕担当編集の調査によれば古事記では「妻籠みに」、日本書紀では「妻籠めに」と読みが違うようだ。
「由緒ただしき縁結びの神だから、当たるだろう」と勘右衛門は言うのだが、そんなことをわざわざ言うのは誰得なのか。
うわーーーんと泣き出すトキ。
しっかり者に見えるトキだが、やっぱり乙女。婚期が遅いのが気にかかるのだろうか。それとも貧乏から脱することができない絶望か。
松野家は真面目な人たちだから真面目にトキをがっかりさせるが、同時に真面目に彼女を慰めようともする。
フミ(池脇千鶴)と司之介はお見合い相手を探すことにして、トキの好みを聞く。
お金を稼ぐ人なのは前提で、それ以外だと「怪談が好きな人」。
「カッパみたいな?」
「悪くないけど。カッパとか天狗とか小豆洗いとか」
「働き者の小豆洗い、見当もつきません」
フミが困惑していく傍らで、トキは元気を取り戻していく。さすが怪談好き。
トキは小豆洗いの絵を父母に見せる。
「士族の小豆洗いはどうか」と勘右衛門。
士族の……っていないだろう、そんな小豆洗いは。
小豆洗いという、いるのかいないのかわからない謎の妖怪をネタにしてひと会話できてしまう愉快な松野家。
こうして、よくわからないけど前向きに松野家総出の婿探しが始まる。
朝になり、川か湖でトキは顔を洗い、口をすすぐ。
朝日に向かって祈るトキ。
とーってもきれいな淡桃色の空が湖面を染めている。
神話の世界のような幻想的な風景があれば、家族がわちゃわちゃするホームコメディの面もあり、それらが溶け合った不思議な味わいの朝ドラだ。
勘右衛門は「婿!婿!婿!」と念を込めて木刀を振っていて、近所の子どもたちにきょとんとされている。幼い子たちの目には、勘右衛門のような侍の格好は奇妙に映るのだろう。たぶん、明治になってから生まれて、武士の時代を知らないのだ。