
歴史には数々の「失敗」がある。この真実を読み解くことで、時を経て繰り返される現代の失敗に向き合う連載『歴史失敗学』。第9回は、幕末期の徳川政権と今の自民党の状況に共通する「危機」について考察する。(作家・歴史研究家 瀧澤 中)
日本史上異例の長期政権・徳川幕府は
なぜ支持を失ったのか
筆者は、歴史と現代との偶然の一致をことさらに挙げて危機を煽る気など毛頭無いが、それにしても幕末には現代との奇妙な一致点が多い。
・外圧
・物価高(米価高騰など)
・住民の直接行動(幕末は打ち壊し、今は投票行動)
・多党化
265年間という日本史上異例の長期政権であった徳川幕府。同じく、自由選挙の保証された近代国家では最長の、70年近く政権を担ってきた自由民主党。
過去、スウェーデンの社民党やフランスの保守連立政権、イスラエルの労働党やカナダの自由党なども長期政権ではあったが、そのいずれも50年を超えて政権を維持したことはない。
世界でも類例を見ない安定政権の担い手であった自民党が、危機的状況と言われる中で行なわれる総裁選。長期政権・徳川幕府がなぜ支持を失ったのか。その失敗を考えながら、現代の日本政治再生へのヒントを探りたい。
幕末、徳川幕府が直面した外交は、アメリカ総領事タウンゼント・ハリスの「大胆な態度をとり、威嚇的な口調を示せば、日本人は直ちに私に従う」という言葉に象徴されよう。
安政5(1858)年の日米修好通商条約では、日本の関税は米国の言うがままとなった。これは現代のトランプ政権下の関税問題と本質的に変わらず、軍事力や経済力を背景にした「砲艦外交」が形を変えて続いているように見えてしまう。
外交交渉の苦労を評価しないわけではない。日米和親条約の交渉担当者・林復斎は、交渉時にペリーが威嚇目的で大砲を撃っても動揺せず、ペリーの主張を論破しながら妥協点を見いだした。