思考を伴わない記憶は定着しない
次に紹介する「精緻化」は、記憶を長期的に強化するうえで欠かせない方策です。精緻化とは、新しい情報に意味を持たせたり、自分の既知の知識や経験と関連づけたりすることで記憶を定着させる方法を指します。
記憶の大前提として、学習には思考が必須です。情報にどれだけ深く思考を働かせるかが、記憶の強さを左右します。精緻化は思考を自然に引き出し、記憶力を高める仕組みといえます。思考を伴わない記憶は定着しないといっても過言ではありません。

たとえば単語学習を考えてみましょう。維持リハーサルでは「bark=犬の声/木の皮」と機械的に繰り返すことになりますが、これでは定着に時間がかかります。精緻化では、犬が「バーク」と吠える姿や、木の皮を剥がすと「バーク」という音がする、といったイメージを重ねることで記憶が意味や感覚と結びつき、強固に残るのです。
自分事にした記憶は忘れづらい
精緻化のテクニックとして、新しい情報を自分の経験や想像と関連づけるのは非常に有効です。たとえばフランス革命を学ぶとき、単に「1789年に始まった」と暗記するのではなく、発端となったバスチーユ牢獄襲撃は民衆が王政に対して怒りを爆発させた象徴的な事件であることを理解します。また、国王ルイ16世やマリー・アントワネットがどのような経緯で処刑されたのかを意識的にまとめて覚えます。
パンの価格が高騰し庶民が苦しんでいた背景を想像し、「もし自分が当時の農民だったら」と考えることで、事実は自分事になり、記憶と理解が深まります。さらに現代の社会や経済と比較すれば、歴史は単なる過去の出来事ではなく「今につながる知識」へと変わります。
ストーリーとして知識を再構成する
精緻化の中でも特に強力なのが、知識をストーリー化する方法です。
たとえば理科で学ぶ「水の循環」も、順序を暗記するだけでは記憶に残りにくいでしょう。しかし、水が太陽に温められて空へ昇り雲となり、雨となって地上に戻るという「旅の物語」にすれば、映像のように思い出せます。社会制度を学ぶときも、登場人物や会話を交えドラマのように想像すれば、理解と記憶が同時に深まります。