私1人が「クレイジーにもほどがある」と喚いて不採用になったが、後で何人かの同僚から「自分もおかしいと思ったのだけど……」と言い訳をされた。事前に「先々まで考えて準備するのが患者のため」と説得されて反論できなかったらしい。
ちなみに別のがんセンターではその後、「抗癌剤治療をする全例でDNR文書にサインさせる」という方針が実際にできたそうだ。そこまで先のことを心配しないとやっていけないのだろうか。
『患者と目を合わせない医者たち』(里見清一、新潮社)
山崎さんはずっと元気で、治療をしながら趣味の山歩きや写真撮影を楽しんでおられたが、やがて病気は進行し、私の再異動先の病院で入院を余儀無くされた。
1月半以上の入院となったが、ご自宅からさらに遠くなり、外泊もままならない。「飼い犬に会いたい」という山崎さんのために、私は(本来はペット連れ込み禁止の)病院敷地内までご家族に車で愛犬を運んでもらい、車椅子で連れ出した患者さんと対面させた。
大変に喜んで病室に戻った山崎さんは、「先生、長いことありがとうございました。私はあと3日くらいですかね」とおっしゃった。
翌々日、山崎さんは亡くなった。あの外来受診の日から7年が経過していた。







