それは、どんな場所でも感情を撒き散らすことでした。

 ある日、来客を送り出した後、再度会議室に戻る動線の途中にA部長は部下を怒鳴り散らしました。

 来客フロアには受付嬢だけでなく、他のお客様や社員の人もいます。その怒鳴り声に、多くの人の視線が集まっていました。

 おそらく、部下の方の粗相に対しての注意だったのだと思います。それは上司として指摘する必要があることでしょう。ただ、場所とタイミングは選ぶべきではないかと思いました。

 どんなに正しいことを言っていたとしても、指摘される本人は「そんな人前で怒鳴らなくても……」と思うはずですし、周りから見ても「他の人の目もあるし、ましてや来客もいる前でやる必要あるかな? 周りが見えていないのかな」と感じた人は少なくなかったと思います。

 話の内容以外の部分に注目が集まってしまっている状況です。一緒にいる社員も気まずそうな表情でした。

 いつの間にか、A部長は「仕事はできるけど、感情コントロールができない人」というイメージになっていました。

 そしてその後、しばらくたったある日、A部長は役員会メンバーから外れていたのです。

 部下の方に「最近A部長を役員会で見かけませんね」とお話ししたところ、「そうなんだよ。実は左遷されてしまってね……」と言うのです。

「数字は上げるんだけど、部下の退職が多くて、ハラスメントで内部通報されているといううわさもあるみたいで……」ともお話しされていました。

 仕事はできるが、出世街道から外れてしまった事例を目の当たりにし、結果を出していても、感情コントロールができないと部下からも上司からも信頼されず、出世の天井を作ってしまうんだと感じました。

 私が受付で聞いている限り、A部長が主張していること自体は、間違ったことではなかったと思います。ただ、伝え方や伝えるタイミングが良くなかった。信頼関係を構築する上で、「伝え方」は非常に大切であると感じた出来事でした。