コスト増時代を乗り切る
保険契約の見直し術

 では、財政を健全に保つというこの必須の取り組みを、具体的にどこから始めれば良いのだろうか。大切なのは、保険代理店となっている管理会社からの更新案を鵜呑みにするのではなく、理事会が主体となって現在の契約内容を最適化する、という意識を持つことだ。

 まず着手すべきは、保険証券に記載された補償内容の精査である。先に指摘した保険付保割合の妥当性や、立地に見合わない「水災補償」、個人契約と重複しがちな補償などを洗い出し、自分たちのマンションに本当に必要な補償だけを残していく。同時に、事故件数が保険料に与える影響を考慮し、「10万円以下の軽微な損害は保険を使わない」といった組合内での運用ルールを定めておくことも、保険料をコントロールする上で欠かせない視点となる。

 契約内容の最適化と並行して進めたいのが、支払い方法と更新タイミングの戦略の部分。多くの保険会社では、5年契約の保険料を一括で支払うことで保険料が割安になる。そのための財務体質を目指すことは、長期的な財政安定にも繋がるはずだ

 また、多くの保険会社が10月に保険料を改定する傾向も見逃せない。組合の更新が11月以降なら、値上げ前に現契約を解約して新しい契約を結び直す「駆け込み更新」も有効な選択肢だ。未経過分の保険料は解約返戻金として戻ってくるため、有利な条件で契約を切り替えられる可能性がある。

自分ごととして
マンションの資産を守る

「2025年問題」は、個人契約だけの話ではない。そして、より深刻なのが、見過ごされがちな「共用部保険」の課題であり、これこそがマンション全体の資産価値を揺るがしかねない重大なテーマなのだ。保険付保割合の見直しから、更新タイミングの工夫まで、打つべき手は数多くある。

 だが、最も重要なのは、これらの対策を実行するための意識改革であり、「管理会社がやっているから大丈夫だろう」という無関心や思い込みは、もはや通用しないのだ。

 共用部保険は、コストであると同時に、自分たちの共有資産を守るための重要なツールでもある。今こそ管理組合が主体となって、自分たちのマンションに本当に合った保険は何か、ゼロベースで見直すことが求められている。それが、将来の予期せぬトラブルを回避し、大切なマンションの資産価値を維持するための、最も確実な道筋となるはずだ。

(株式会社さくら事務所創業者・会長 長嶋 修)

さくら事務所公式サイト
https://www.sakurajimusyo.com/