WHO(世界保健機関)だ。

 コロナワクチンのときによく聞いたこの団体は実はずいぶん昔から、「アルコール規制」の必要性を訴えてきた。

 精神神経疾患、心血管疾患、肝硬変、がんなどの危険因子であるとともに、HIV/AIDS、結核や肺炎など一部の感染性疾患とも関連があり、さらには交通事故、暴力、自殺、傷害にも影響を及ぼすという。2010年5月には「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を全会一致で採択している。

 そんな「アルコール規制」が実はここにきて加速している。背景にあるのは、「エビデンスの蓄積」だ。

 これまでは「アルコールは摂取しすぎると体に悪いけど、適度にとれば問題ない」ということになっていたが、近年の研究でアルコールは100%有害という研究結果が増えてきたのだ。これを「武器」に、WHOは手始めに欧州で規制強化を訴えている。

 WHO、欧州でアルコール飲料にたばこ並み「がん警告」要請(ロイター 2月17日)

 欧州でタバコを買ったことのある人はわかるだろうが、これらの国々ではタバコの箱には、デカデカとがんや脳卒中のリスクを高めることを伝える警告文が表示されている。これと同じようなものを酒の缶やボトルにも表示せよというのである。

 もちろん、酒業界もやられっぱなしではいかない。ロイターが9月に報じたところによれば、ベルギーのビール業界、メキシコのテキーラ製造会社、オランダのビール大手ハイネケンという酒業界は、WHOのアルコール規制に対抗するロビイングを積極的に仕掛けているという。

 世界のアルコール業界、健康への影響巡るWHOの規制導入に反発(ロイター 9月25日)

 《アルコール飲料会社は、科学的分析はより複雑であり、適度な飲酒であればリスクは低いと主張。世界の酒類業界団体「インターナショナル・アライアンス・フォー・リスポンシブル・ドリンキング(IARD)」のブレイスウェイト最高経営責任者(CEO)はロイターに、酒類業界は「アルコール飲料を巡る論争の主導権を取り戻す」と述べた》(同上)

 ただ、残念ながら、これでは「主導権を取り戻す」ことは難しいだろう。健康リスクで争うのはかつて世界のタバコ業界も味わった「負けパターン」だからだ。