タバコ業界の敗北
酒も同じ道をたどるのか

 筆者は20年以上前からタバコ問題について取材を続けているが、かつてタバコ業界の人たちもこのようなことをよく言っていた。

「タバコで肺がんになるというのは実は真っ赤な嘘なんですよ、そんなエビデンスは世界にはありません」
「むしろ適度な喫煙は健康にいい。最近では認知症予防になるという研究もあるんですよ」

「へえ、そうなんですか」と驚いて論文やら資料をもらったものだが、大学の研究者、国立がん研究センターなど専門機関に取材をすると、ものの見事に全否定。「それはタバコ会社から資金が出ている研究で、学会では相手にされてません。信用してはいけません」などと釘を刺されることもあった。

 そんな風に「タバコは有害派」と「タバコは安全派」双方の主張を10年、20年と聞いてきたが、「タバコでがんになるのは嘘」「認知症予防になる」を唱える人たちは徐々に少なくなっていった。

 タバコ業界は科学的分析で「主導権」を取り戻そうとしたが、やはり餅は餅屋で、WHOを筆頭とした世界の医学界の方に軍配が上がってしまったのである。

 そうなるとタバコ業界としては、「確かに体に悪いけれど食後の一服などで心を満たしてくれる」という幸福感を訴えていくしかない。これはアルコールも同じだ。

 つまり、当初は「酒は健康に悪くない」で戦うが結局、負けてしまい、「お酒を飲むことでリラックスできたり絆ができたりするじゃないか」という“精神的なメリット”をアピールすることで、規制強化に抵抗していくのである。

 しかし、そんな展開はアルコール規制推進派も予想している。お酒を飲むことで得られるメリットをチャラにするような問題を指摘して、規制強化を促していくだろう。

 そこで最も標的とされる可能性が高いのが「有名人の飲酒トラブル」だと筆者は思っている。

 先ほど紹介したWHOの「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」の中には、「飲酒や酩酊による悪影響の低減」という目標も含まれている。