退職意思を固めた時点で
慰留策はもはや存在しない
上司からすれば、自分の部下が辞めるとなると、異動や新規採用によって代わりの労働力を投入するなどの対処が必要になるため、大問題です。そのため、好条件を出して、部下を慰留することもしばしばおこなわれます。
一般的によく提示される条件としては「将来のキャリアパスを示す」「報酬アップや福利厚生の見直しを提示する」「労務負荷を軽減し、ワーク・ライフ・バランスを促進する」「新たなプロジェクトや責任あるポジションを割り当てる」「コミュニケーションとフィードバックを強化する」などが挙げられます。
確かに、一見するとよい条件に感じますが、もしあなた自身に転職経験があればよく考えてみてください。
あなたが勤務中の会社に愛想を尽かし、転職活動を始めた時点で、仮に会社側がいかに好条件を提示して慰留してこようとも、気持ちは概ね固まっていたはずです。
むしろ、退職を前提に動いているときに、「実は来期にお前の昇進を考えてたんだ」「部長もお前のことを評価してたぞ」「好きなポジションに異動させてやる」などと言われたところで、「それならもっと早く言ってくれよ!」と感じるでしょうし、却って組織への信頼度は下がるでしょう。ましてや、「この会社で頑張っていこう!」などとは思えないのではないでしょうか。
つまり、部下が退職意思を固めてしまった時点で、周囲にできる慰留策はもはや存在しないものと考えたほうがよさそうです。実際、中小企業庁の調査においても、就業者の立場における「就業者から見た、仕事を辞めないために(組織側に)必要な取組」としてもっとも多かった回答は「どのような理由があっても退職は避けられなかった」でした。
残念ですが、「退職したい」という部下に対して上司や会社がやるべきは、「余計な邪魔をせず、円満退職をサポートする」ことに尽きます。
慰留を重ねることで「何を今さら……」と部下にネガティブな感情を持たれるのではなく、退職に伴う諸手続をスムーズに進め、残っている有給休暇の消化を勧め、これまでの部下の貢献や努力をたたえ、送別イベントや記念品を贈呈するなどの贈り物などの形で感謝の意を示し、部下が気持ちよく辞めていける環境を作り出すことです。