問題社員ではあるが、仕事ができて有能
「何かとよく忘れる問題社員なら、取引先とやり取りするような重要な仕事から外せばいいわけですが、じつは彼は非常に優秀なんですよ。たとえば、こちらの商品や企画を先方に説明する際に、彼がいると助かるんです。物忘れのない別の部下よりも、的確な説明ができるんです」
「そうすると、よく忘れるという点を除けば、とても有能な人物というわけですね」
「そうです。本当に有能なんですよ。部署の会議でも、示されたデータを見て適切なコメントをするし、取引先との打ち合わせでも、相手方の資料を見てすぐに理解するし、ハッキリしない点は質問するし……うちはそんなに優秀な人物ばかりじゃないので、貴重な戦力なんです」
「そんなに優秀なんですか。それは外せないですね」
「彼が無能であれば、それなりの扱いができるんですけどね……それにしても、あんなにできる人物が、なぜあれほど物忘れが激しいのか。そこが理解できません。それと、彼の物忘れをどうにかできないか、悩んでいます」
記憶力全般が悪いわけではない
このようなケースについて考える際のポイントは、忘れ物が多いという点、そして予定を忘れてしまうという点である。ただし、決して記憶が悪いというわけではない。先の管理職は、そのことについて、次のように説明する。
「会議の時間を忘れて遅刻したり、会議で配布する資料を忘れたり、彼のうっかりミスには手を焼いてるんですけど、でも記憶力が悪いのかというと、そうも言えないから理解に苦しんでしまって……」
「記憶力が悪いというわけでもないというのは、具体的にどういうことから言えるんでしょうか?」
「例えば、取引先との打ち合わせの場で先方が言ったこととかをしっかり覚えている。むしろ、同席した他の従業員よりも記憶力がいいんですよ」
「忘れ物が多く、会議とかのこともよく忘れて遅刻したりするのに、決して記憶力全般が悪いというわけではない、ということですね」
「まさに、そういうことです。彼を有能な人材として育てていくには、どんな対策を取っていったらいいのか、皆目見当がつかず、困ってるんです」
有能で、仕事能力面では非常に頼りになるのに、なぜか予定を忘れてしまい、会議や取引先訪問などで遅刻が多い。会議で議論した内容はよく覚えているし、取引先との打ち合わせの場面で先方の発言等については他の従業員よりもよく覚えている。ゆえに、記憶力が悪いということではない。
これをどう理解したらよいのか。それが分からないため、このタイプの部下を抱える管理職は頭を悩ませることになる。そこで重要なのは、記憶と一口に言っても、いろんな種類があることを踏まえておくことである。