このように展望記憶に難がある場合は、いくら口頭でしつこく注意を促しても改善は期待できない。具体的な対策を取る必要がある。

 まず取るべきは、メモなどの外部記憶装置を多用して、すべきことを忘れないようにする対策だ。だが、会議等への出席をうっかり忘れてしまうといったケースでは、メモだけでは心もとない。いくら「○○時に○○会議室での会合に出席」とメモしてあっても、その直前にタイミングよくメモを見るとは限らない。

 そこで必要なのがタイマーなどのトリガー機能の活用である。タイミングよく思い出せるようにタイマーを利用するのである。アラームが鳴れば、そろそろ会議室に行く時間だと思い出すことができる。

 展望記憶に難のある人物には、こうした対策を取るように指導するのが有効といえる。

ネガティブな気分を伴う予定は要注意

 展望記憶というのは、未来の予定行動を確実に導く役割を担うだけではない。未来の予定行動を想起することによって、何らかの気分がもたらされることもある。

 たとえば、「明日はあの気むずかしい取引先の担当者のところに行って、こちら側の意向を説明し、何とか説得しなければならない」ということを思い出すだけで憂うつな気分になる。「明日は彼女とのデートの日だ」ということを思い出すとウキウキした気分になる。

 ここで注意すべきは、ネガティブな気分を伴う展望的記憶は、つい忘れてしまいがちだということである。

 嫌な予定というのは、できることなら近づいてきてほしくないものである。そこで、無意識のうちにそうした予定を遠ざけようとする。そうした心理メカニズムが働いて、思い出さなかったり、展望的記憶の中でほんとうの予定よりも先の日や先の時間に延びていることがある。

 気乗りのしない予定は、つい忘れてしまいがちである。明日だと思っていたら今日だったとか、4時だと思っていたら3時だったというように、日にちや時間をもっと後だと勘違いしたりする。そうなると遅刻やすっぽかしというような、あってはならない事態が生じてしまう。

 ゆえに、気乗りのしない予定はとくに要注意である。うっかり忘れたり日にちや時間を間違えたりしないように、手帳やスマホに書き込むのはもちろんのこと、出かけなければならない時刻にアラームをセットしておくなどの工夫が大切となる。

 このようなリスクマネジメントをしておくように指導する必要があるだろう。