〈私は部屋から庭から、綺麗に、毎日二度ぐらいも掃除せねば気のすまぬ性ですが、ヘルンはあのバタバタとはたく音が大嫌いで、『その掃除はあなたの病気です』といつも申しました。学校へ参ります日には、その留守中に綺麗に片付けて、掃除しておくのですが、在宅の日には朝起きまして、顔を洗い食事を致します間にちゃんとしておきました。このほか掃除をさせて下さいと頼みます時には、ただ五分とか六分とかいう約束で、承知してくれるのです。その間、庭など散歩したり廊下をあちこち歩いたりしていました〉(『思ひ出の記』)
『セツと八雲』(小泉 凡・著、聞き手・木元健二、朝日新聞出版)
執筆している間、八雲は「ゾーン」に入ります。ランプから黒煙が出てしまい、室内が暗くなってしまっても、気づかずに書き続けるほどでした。
〈著述に熱心にふけっている時、よくありもしない物を見たり、聞いたり致しますので、私は心配のあまり、あまり熱心になりすぎぬよう、もう少し考えぬようにしてくれるとよいが、とよく思いました。松江の頃には私はまだ年は若いし、ヘルンは気が違うのではないかと心配致しまして、ある時西田さん(編集部注/西田千太郎。ドラマ「ばけばけ」で吉沢亮が演じる錦織友一のモデル)にたずねた事がございました。あまり深く熱心になり過ぎるからであるという事が次第にわかって参りました〉(同前)
そんな風に肩を寄せ合うセツと出会わなければ、八雲はラフカディオ・ハーンのままでした。小泉八雲となることもなく、『怪談』で知られる文豪に「ばける」こともなかったでしょう。







