松江市のホテルでは夫婦にちなんだドリンクが用意されることになりました。地元の高校生が知恵を出したのです。「八雲の湖」は宍道湖や松江の空の色をイメージした青色が基調です。
「セツの花言葉」というも飲み物も生まれました。紫色を基調にした一杯で、波瀾万丈を乗り越えたセツの人生を映し、優しさと強さを兼ね備えているというイメージだそうです。
松江を見た八雲は
母国と似たものを感じた
隠岐諸島にある島根県海士町も八雲が訪問したゆかりの地です。2025年1月、八雲にちなんだ、デジタル地域通貨「ハーンPay」を導入しました。口座引き落としなどでチャージ(入金)し、1コイン=1円として使えます。
愛される八雲像がデジタル社会も渡り歩いている一方で、松江には今も神話的な営みが残っています。
例えば黄泉比良坂です。
『古事記』で亡き妻イザナミに会うため黄泉の国を訪れたイザナギが、変わり果てた妻の姿に驚いて逃げ出し、この世との境を岩で塞いだとされる地。
松江市郊外の東出雲町揖屋はその伝承の地とされ、現代では、亡き人への思いがつづられた手紙のおたき上げが毎年あります。愛する人に先立たれた人の心を癒やしたい、という、都雅な営みです。
こうした土地柄に、八雲は少年期を過ごしたアイルランドの精神世界と通じるものを感じました。それは妖精が息づき、樹木をはじめ自然の中に精霊が宿る、という信仰でした。
他界する3年前、アイルランドの国民的詩人W・B・イェーツ(1923年、ノーベル文学賞受賞)に宛てた手紙の中でこんな風に胸の内を明かしています。
「ダブリンのアッパー・リーソン通りに住み、私には妖精譚や怪談を語ってくれたコナハト出身の乳母がいました。だから私はアイルランドのものを愛すべきだし、また実際愛しているのです」(1901年9月24日付、イェーツ宛て書簡より)
二度と帰ることのなかったアイルランドへの愛情を告白した文面です。
「愛すべきだし、また実際愛しているのです」
という入り組んだ言い方に八雲の複雑な心情が表れているように感じます。







