一方、水面下にある「見えない氷山」は、その現象が起こる背景にある「その人の発達特性」と考えることができます。そして、氷山が浮かんでいる「海水」は、その人を取り巻く「職場の環境」にあたります。

成果が出ない原因は
本当に発達特性のせい?

 たとえば、お客様から「要望にきちんと対応してくれないので、担当者を替えてほしい」と繰り返し苦情が寄せられているAさんという人が職場にいたとします。

 この場合、「お客様からのクレームがある」「要望への対応がうまくできていない」といった出来事が、「水面上の氷山」にあたる見える部分です。そして、その背景にある「水面下の氷山」、つまりAさんの発達特性が、こうした現象の原因になっていると考えられます。

 しかし、外から見える行動だけを見て、「お客様にうまく対応できないこと」そのものが本人の特性であるかのように誤解されてしまうことがあります。

 でも、それは「結果として起きた現象」であって、「その人が持つ特性」ではありません。

 表に出る現象は、環境によって大きく変わることがあります。だから、見えている現象だけを取り上げて「あれもできない、これも苦手」と追い詰めてしまっても、意味がありません。

 大切なのは、そうした現象の背景に、発達特性、つまりどんな脳の働き方や考え方の特徴があるのかを理解し、そのうえで仕事の進め方や工夫を考えていくことです。

真の原因を特定しなければ
同じ失敗を繰り返すだけ

 たとえば先ほどのAさんのケースで、「外部のお客様対応がうまくいかない」からといって、配慮のつもりで社内の調整業務に移したとします。

 ところが今度は、関係部署との連絡ミスが頻発し、うまくいかなくなってしまいました。人事担当者は悩み、Aさん本人も自信をなくしてしまう、というような対応の失敗例はよく見られます。

 こうしたことがなぜ起こるかというと、Aさんがどんな特性を持っているかという「水面下の氷山」に対する十分な理解を持たないまま業務内容だけ変えた結果であると言えます。