特に職場では、学校のように「安心して過ごせること」が第1の目標というわけにはいきません。仕事として報酬を受け取る以上、それに見合った成果が求められるため、職場の状況や業務の内容がよくわかった上での支援が必要であり、ハードルは高くなりがちです。
発達障害の診断書が出ても
問題は1つも解決しない
診断を下した専門医であっても、その人の職場環境や具体的な仕事内容を詳しく把握しているわけではないため、「診断が出れば問題が解決する」というものではないのです。
つまり、診断はあくまで1つの情報であり、それで業務上の問題を解決してくれるわけではありません。
もちろん、医学的な枠組みに基づいて診断されることには大いに意義はありますが、重要なのはその先――診断をどう活かすかということです。もっと言えば、診断の有無にかかわらず「特性」を踏まえてどう活かすか、なのです。
本人の特性や業務の内容、職場の状況を踏まえた上で、どのように業務を設計したり、どんな指示の出し方をすれば本人の力を最大限に引き出せる――それを一緒に考え、具体的な工夫を提案できる人の存在が大切です。
そうした人になり得る専門家や制度はまだまだ不足しています。しかし、支援を行うのは必ずしも専門家でなくても構いません。
実際、現場の業務をよく理解している上司や人事労務担当者が、発達特性について適切な知識を持ち、適切な工夫や調整を行ってうまくいっている事例もたくさんあります。
発達特性の理解において大切なポイントのひとつは、「同じ人でも置かれた環境によって、その特性の現れ方やどう評価されるかが大きく変わる」ということです。
ある場面では困りごととして目立つことが、別の場面ではまったく気にならなかったり、むしろ高く評価されたりすることもあるのです。
もちろん学生時代にも困難と苦しみを抱えていることはありますが、やるべき学習内容があらかじめ決まっており、それを覚えてテストで成果を出せばよい、という比較的明確な枠組みの中で過ごします。







