オリンピックで転倒
その経験が5年後に活きた

松田 モチベーションについては、失敗したときの対処法も鍵になると思います。先ほど言ったとおり、子どもたちは〇×式の教育を受けてきたせいで、一度失敗しただけで自分を全否定してしまうんです。為末さんは、失敗をどうやって乗り越えてきたのですか。

為末 失敗ですか…。僕はシドニーで派手に転倒したんです。原因は風でした。

松田 見てました。

為末 でも、この失敗も学びになるんです。シドニーで僕は、「風が吹いている状況は、それを経験していない選手にとっては不利に働く」とわかった。そのことは、5年後のヘルシンキの世界陸上で活きました。決勝に残ったのは、若い選手ばかり。僕は環境が悪いときの若い選手の気持ちがなんとなくわかっていたので、じつはちょっとした心理戦を仕かけた。それがメダルにつながったわけです。

 僕が失敗を活かせたのは幸運だったかもしれません。現実には、次に活きるチャンスのない失敗もたくさんあると思います。でも、いつか活かせるときがくるという思いで失敗を受け止め、蓄積していくしかない。僕はそう思います。

わかりやすい報酬を求めると
努力が長続きしない!

松田 失敗をいつか活かすという思考は大事ですね。ただ、いまの子どもたちは努力に対してすぐに結果を求める傾向があるから、なかなか待てないかもしれません。いや、子どもたちだけじゃなく、最近の大人もそういう傾向があるかも……。

為末 自分の努力に対して、わかりやすい報酬を求めないほうがいいと思います。自分を振り返るとトップの世界はすでに限界に近づいているから、新しいことを試しても結果が出ないことが多いんです。そのときに「タイム短縮」というような報酬を頼りしていると、気持ちが続かなくなってしまいます。

 だから結果が出なくても、「少なくてもこれはダメだとわかった」とか、「うまくいかなかったことも経験として蓄積されていく」ということを自分の報酬にしないといけない。

松田 その考え方は研究者に似ているかもしれませんね。

為末 そうかもしれません。そうした報酬に日々気づける人は伸びると思いますよ。

取材・文 /村上敬
次回の掲載は6/27です。


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