しかしそれでは、可能性が狭まっていく一方であり、やはり個人も企業も日本という国も停滞を続けるだけになってしまいます。

自分の力で人生を切り拓くには
物事に積極的に関わるしかない

 フランスの哲学者であり、小説家や劇作家としても活躍したジャン=ポール・サルトル(1905~1980)が提唱した「アンガジュマン」という概念は、まさにそのことを物語っています。

「人は自分で人生を切り拓くものである」という意味での実存主義を唱えたサルトルですが、どうしても乗り越えることのできない壁に直面します。

 たとえば、戦争や植民地支配といった国家による政策は、あまりに大きすぎて、一個人がどう抗っても簡単に事態を変えることはできません。

 そこでサルトルが提起したのが、アンガジュマンという考え方でした。これは「積極的関わり」とでも訳すことのできる概念で、状況に対して積極的に巻き込まれていく態度です。

 私たちは、この世に生を享けた瞬間から、望むと望まざるとにかかわらず、さまざまな状況に巻き込まれてしまっています。

 その状況を避けることなどできないわけですが、ただ受動的に巻き込まれて翻弄(ほんろう)されるのは馬鹿らしいことです。だからこそサルトルは、そうした状況にむしろ積極的に関わることにしました。

 たとえ状況や事態を変えることはできなくとも、そこに挑んでいくことはできる。それを自由と呼ばずして、なんと呼べばいいのか。

自分で選択する勇気が
人生を前に進めてくれる

 現にサルトルは、自由を行使し、さまざまな反戦闘争やアルジェリアの反植民地闘争に関わっていきました。

 もちろん、彼の行動によって、急に事態が変わったわけではありません。

 しかし、自由を行使し、自分の思いに従って選択をしたことで、少なくともサルトル自身は納得いく人生を送ることができました。

 そこが大事なのです。

 アルゴリズム、VUCA、ゼロ・サムの時代において、自由の行使だと考え、自分の思いに従って選択したとしても、すぐに現実を変えることは難しいかもしれません。