これで200字弱です。「阿房列車」シリーズ全体のコンセプトを、これだけの分量で示しています。

記号の位置まで揃える
書き手としての美学

 私はいま「朝日小学生新聞」の一面コラム「天声こども語」を週に1回、書いています。

「朝日小学生新聞」は日刊なので、7人の筆者が毎日交代で書いているわけです。子ども向けとはいえ手を抜かず、コラムとして質の高いものを目指したい。そう考えています。

 1行が14字で28行。ロゴで減る部分があるので374字です。

 1つ例をご覧ください(2024年11月4日付)。原文は漢字にふりがなを振っていますが、省いています。

天声こども語

「でたらめ記者」。はて、だれのことでしょうか。大正時代に首相を務めた原敬が、大阪の新聞社で社長をしていたころに、連載随筆のペンネームとして使っていました▼随筆は、外国との付き合いに不慣れだった日本人に、習慣の違いや交際の仕方についてユーモアを交えて説き評判になりました。後に平民宰相(首相)と呼ばれた人となりがわかります▼原は多くの文章を残しました。中でも「原敬日記」には、古い勢力とたたかい政党内閣を作る道のりが語られています。大正デモクラシーの基礎資料です▼1921年11月4日、原は若い男に刺されて亡くなり、自宅で遺書が見つかりました。栄典は不要で葬儀や墓は簡素に、などと書かれていました。遺言通り岩手県盛岡市にある墓には肩書もなく「原敬墓」と彫られています。事あるごとに先人の墓参りをする政治家は多いもの。ぜひこの墓に学んでほしいものです。

 本当は書きたいことをずいぶん省略していますが、これで一応伝えたいことは何とか伝えている、と思っています。

 ▼を横に揃えるのは、文章の職人としての一種の美学です。素粒子時代からのこだわりです(編集部注/紙面掲載時のレイアウトでは、「▼」の位置がいずれも同じになっている)。

伝えたいことを文字数に
収めるのも重要な仕事

 小学生向けなので「です・ます」調で書いていますが、大人向けに「た・である」調で書けば、もう少し字数は減ります。