ターミナル内で従業員らが
必死でクマに立ち向かっていった
女性からクマを引き離そうとした従業員のひとりは、モップの柄で突いたり足で蹴ったりしているうちに右腕を噛まれ、足も爪で引っ掻かれた。椅子を手にクマを追い払おうとした女性従業員は、気がついたらいつの間にか噛まれていて出血していた。彼女を助けようとして素手で立ち向かった同僚の男性も、引っ掻かれてケガをした。
バスターミナルの一階に避難していた約50人(100人前後という報告もある)の人々は、パニックに陥りながら逃げ惑い、テーブルの上に飛び乗るなどしてクマの攻撃をかわそうとした。一部の者は上の階へ避難し、3階部分の屋根裏部屋に逃げ込んで内側から机などでバリケード封鎖する者もいた。
そんななかで、従業員らはケガにも怯まずに必死でクマに立ち向かっていった。従業員のひとりがこう証言する。
消火器の白い薬剤と刺激臭で
クマが驚いて逃げ出した
「お客さんから手渡された消火器でクマを叩こうと思ったのですが、重くて無理だったので、噴霧して追い出そうとしたんです。クマは消火器の白煙にびっくりしたようでしたが、外に追い出すことはできず、最終的に売店の中に逃げ込みました」
勢いよく噴射される消火器の白い薬剤はクマが初めて目にするもので、薬剤の刺激臭と相まって、驚いて逃げ出したものと思われる。
ターミナルの1階部分には食堂と休憩所、それに売店があり、食堂の売店の仕切りのところで格子状のシャッターが下りるようになっている。従業員はそのシャッターを下ろして、クマを売店内に閉じ込めた。
襲撃された人は
みんな顔をやられた
そして午後6時前、報せを受けた高山猟友会丹生川(にゅうかわ)支部のメンバー4人が現地に到着。防犯用ミラーに映ったクマの様子をシャッター越しに探り、通路に姿を見せた瞬間、シャッターの隙間から銃撃して射殺したのだった。
その後の解剖の結果、クマは21歳の高齢の雄だったことが判明。体長は136センチ、体重は67キロの、健康な個体だった。
小笠原によると、襲撃された人はみんな顔をやられたそうだ。
「クマが人を襲うときは、やはり顔を狙ってくるようですね」
しかし、後にも先にも乗鞍岳周辺で立て続けに人が襲われたという例はほかにない。この事故のクマに限って、なぜ特異な行動に出たのだろうか。







