これまで、政府は財政赤字を補填する財源として、過去の石油・ガス税収の余剰分を積み立てた国民福祉基金を取り崩してきた。その中心は金や外貨などの流動性の高い資産であるが、同基金の金の保有量は2021年末の406トンから2025年9月末に173トンへ減少、外貨と合わせた評価額は8.4兆ルーブル(GDP比7.3%)から4.1兆ルーブル(GDP比1.9%)へ半減し、これ以上の大幅な取り崩しはできない状況となっている。

 こうした状況の下で、ロシア政府は赤字を補填するために増税を計画し、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)の改正法案を議会に提出した。この法案では、標準税率を来年1月から20%から22%へ引き上げるほか、小規模事業者の免税枠を縮小する形で課税対象が拡大されることになっている。

 ロシア財務省によると、付加価値税の改正により年1.2兆ルーブルの増収が見込まれている。これまでも政府は戦費調達のために増税を行ってきたが、いずれもエネルギー関連企業、大企業、高所得者層を対象としたものであった。政府は一般国民に広く負担を課す手段を控えてきたが、今回の付加価値税の引き上げは、これまでの手法とは一線を画すものである。

ロシアの原油収入減の背景には
経済制裁の負担の積み重ねも

 財政悪化の直接的な原因は、原油安にある。ロシア産ウラル原油の価格は、2025年1月に1バレル68ドルだったが下落基調が続き、同年9月には1バレル57ドルとなった。これにより今年の石油・ガスによる収入は、当初計画の10.9兆ルーブルから8.6兆ルーブルへと大幅に下振れる見込みである。

 経済制裁がロシアの原油輸出収入を圧縮している点も無視できない。

 ウクライナ侵攻以前に輸出先の約半分を占めていた欧州がロシア産原油の輸入を原則禁止すると、ロシア産原油はインドなどアジア向けの輸出に振り替えられた。輸送距離は大きく伸び、輸送コストが増加した。また、広範な金融制裁によって使用できる保険サービスが限られ、船舶保険などのコストも増加した。これらのコストの上昇分は、原油価格の割引という形でロシア側が負担している。