A氏はM氏の捜索願を出せないかと考えて警察に相談した。すると、警察官から「本人と連絡が取れた。意思を持って逃げているようだ」と教えられた。

キャバクラに160万円…
払われずじまいの金の行方

 11月11日には、新宿屋の代理人を受任したと名乗る弁護士から「事業を停止し、破産申し立てを行うこととなった」との通知書が債権者あてに送られたが、3週間後の12月2日には、「代理人を辞任した」「以降は当事務所で対応できないので、新宿屋または代表者あてに直接連絡を」とする通知書が届いた。

 無論、新宿屋にはもう誰もいなかったし、M氏の携帯を鳴らしても応答はなかった。

 M氏はスタッフの給与や融資返済、取引先代金など多くの支払いを残し、新宿屋を事実上、倒産させた。A氏らスタッフは10月末を退職日として、労働基準監督署に未払い賃金の立て替えを求める手続きを進め、おのおの異なる道を歩み始めた。

 A氏が1年前にM氏へ引き継いだ現預金が、何にどう使われたかははっきりしない。

 ただ、私の手元には、A氏がM氏に渡していた法人用クレジットカードの利用明細の写しがある。2024年1~9月の利用分で、9月はカード利用に制限がかかったとみられ、ほぼETCしか使われていない。

 9カ月分の利用総額は307万5432円。ETC利用のほか、ウーバーイーツ、アマゾンでの買い物、新幹線代、ビジネスホテルの宿泊もめだつが、全体の8割を超えるのがキャバクラとラウンジの利用だった。

 私の集計では、明細には大阪・北新地のキャバクラやラウンジ4店で計261万6470円が費消された。とくにお気に入りだったと目されるのがキャバクラ店Aで、22回で162万3910円が使われている。

 これらの支出も、新宿屋の資金繰りを悪化させた一因であることは疑いようがない。

仲介会社はM氏のことを
「不適切な買い手」とわかっていた

 私がクレジットカードの利用明細を1枚ずつめくり、キャバクラの利用額を集計していたさなかのことだ。

 経済産業相の武藤容治が2025年1月24日午前の閣議後記者会見で、M&A DX社を名指しし、中小企業庁が運用するM&A支援機関登録制度(編集部注/中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築することを目的に、2021年8月、中小企業庁によって創設された制度)の登録を同日付で取り消す処分にしたと明らかにした。取り消し期間は8カ月。取り消し処分が出るのは2021年に制度を創設して以来、初めての事態だ。