「泣ける」と評判の映画は
本当に悲しい内容なのか?
そしてもう1つ、見逃せないことがあります。
それは、「泣ける」ときに感じている感情は、単なる悲しみではないということです。
このテーマについて、わたしたちは1つの実験を行いました。
「泣ける」と言われる短い動画を300本以上集めて、約800人の被験者に視聴してもらい、それぞれの映像に対して「どんな感情を抱いたか?」を評価してもらったのです。
使った感情ラベルは全部で34種類。「悲しみ」「感動」「美しさ」「喜び」など、日常的な言葉で分類されたものです。
結果は一見、想定通りでした。多くの人が「悲しみ」というラベルを選んだのです。
でも、それは本当に「悲しかった」のでしょうか?
「泣ける」と言われる動画だったから、「悲しい」という言葉を選びやすくなっていた可能性はないだろうか――そんな疑問が、ふと頭をよぎりました。
わたしたちは感情を言葉で表すとき、その言葉の意味や印象に、知らず知らずのうちに引っ張られてしまうことがあります。
たとえば友達に、「観たら絶対感動するよ」と紹介された映画を観ると、自分も感動したような気がしてしまう。あるいは、周囲が涙を流している場面に出会うと、自分も悲しみを感じなければと構えてしまう。
感情が先にあるように見えて、実は「そう感じるべき」というラベルの影響を受けている。
そんなことが、今回の実験の評価にも入り込んでいたかもしれないのです。
心が揺さぶられることを
快感と認識する習性を発見
そこでわたしたちは、言葉に頼らず、実際の感情体験の構造を明らかにするために、「多次元尺度構成法(MDS)」という手法を使いました。これは、人が似ていると感じた感情同士は近くに、似ていないと感じた感情は遠くに並べて、感情の配置を地図のように描き出す技法です。
言い換えると、言葉のラベルではなく「体感としての感情の距離感」を可視化できるのです。







