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ユニクロを育て上げたファーストリテイリングの柳井正会長は「独裁的」などと評価され批判されることがある。たしかにさまざまな資料を見ると、強いリーダーシップゆえに周囲との衝突があったように思われるが、創業期から現在にかけて、そのスタイルは変わっている。柳井氏はどう変化したのか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「それは違うでしょう!」会社に招いた研修の講師に猛反論
1991年の秋、まだ地方の衣料チェーンにすぎなかったファーストリテイリング(ユニクロを経営)本社の会議室で、ひとりの経営者が声を荒げた。
「それは違うでしょう!」
講師として招かれたコンサルタントの言葉に、柳井正氏は真っ向から反論した。テーマは「社員教育」だった。講師はこう語ったという。
「トップダウンでやるよりも、社員一人一人が考えて実行するほうが大事です。上司に言われることをやるだけではだめです」
しかし当時の柳井氏は、即断即決の塊のような男だった。自らが考え、命令し、全員を動かす。それが最速の道だと信じていた。ユニクロが全国展開をかけた瀬戸際にあると信じ、「一年に30店舗ずつ開かねば潰れる」とまで本人は思い詰めているのだから、コンサルに喰ってかかったのも当然だった。
だが、その怒声の数年後、柳井氏は自著『一勝九敗』(新潮文庫、2006年)で「やろうと決めたらその瞬間にそのとおり実行されないと、つぶれると思っていた」と振り返り、その後考えが変化したことをつづっている。
《徐々に会社の規模が増大していくのをみて、このままのワンマンな経営スタイルではやがて行き詰ってしまうだろうと考えるようになっていった》
柳井氏の怒りは、徹底的な合理主義の裏返しである。
多くのリーダーが陥る幻想、「自分の思ったとおりに動けば組織は最短で成功する」というのは、誤解に他ならない。現場を熟知した優秀な経営者ほど、自分の判断が正しいと確信する。だがその瞬間、社員は「手足」へと変わり、頭脳はひとつしか残らなくなる。
柳井氏はその後、経営の本質を学ぶ。「どんな優秀な経営者で、たとえ小さな会社であったとしても、すべての業務を一人で完璧に操りフォローできるということはありえない」(同書)と書いた。この一節には、トップダウン型経営の宿命が凝縮されている。
興味深いのは、この柳井氏の“後悔の軌跡”が、学術的にも裏づけられている点である。







