兄の代理人弁護士からの連絡は
「遺産総額3000万円は兄のもの」
数週間後、隆司さんのもとに兄が弁護士を立てたことを示す内容証明郵便が届きました。送り主は兄の代理人弁護士。
その内容は、「兄は介護に貢献しており遺産総額3000万円の全額を取得すべきである」という、寄与分の主張に基づくものでした。寄与分とは、被相続人(亡くなった人)の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対し、法定相続分より多くの財産を認める制度です。たとえば、無償で長期間介護を行ったり、事業を手伝ったりした場合などが該当します。
隆司さんは内容証明を読み、怒りがこみ上げたといいます。
「介護してくれたことには感謝しているが、3000万円全額とはあまりにえげつない。生前介護に協力してほしい、お金でもっと協力してほしいという希望があればできる限りは協力するつもりだった。父の相続の時には同居のお礼に、家を兄にあげている。今回兄が法定相続分を超えた全額取得を主張するのは兄嫁のせいだろう」
遺産分割協議は決裂し、現在は調停の場で話し合いが続いています。
介護を担う伴侶の苦労を毎日見て
何も言えなくなる
相続問題に詳しい虎ノ門法律経済事務所横須賀支店の中村賢史郎弁護士に相続人以外の方が遺産分割協議の場で発言する難しさについて聞きました。
「相続トラブルの中で『兄弟仲が壊れるケース』の一つに、兄弟本人よりも『その伴侶が積極的に遺産分割の話し合いに介入する』ケースがあります。特に介護を担った伴侶は日々の介護で苦労を重ねており、配偶者である相続人はその苦労を毎日のように見ていることから家庭内での影響力は徐々に強くなっています。相続の場で伴侶が遺産分割について積極的に介入し、配偶者である相続人がその介入を抑えることができないというケースは少なくありません」
介護で貢献しても
調停や訴訟で報われるとは限らない
続けて、中村弁護士は介護で貢献した方が調停や訴訟で報われるとは限らないと指摘します。
「被相続人である父母の介護をした労力について相続時に評価されたい、という気持ちは理解できます。しかし、裁判所は“どれだけの労務をどの期間どのような方法で行ったか、他の家族の協力はどうだったか、相続財産額はいくらか”などの事情を厳密に判断します」
「介護はとても過酷ですが、寄与分の認定は厳しく、介護した方が自己の労力に見合うような寄与分額を受け取れるケースはまれといえます。2019年の民法改正により、相続人でない親族でも『特別寄与料』を請求できる制度ができましたが、認められる金額は寄与分と同じく労務内容や期間などによって慎重に判断されています」
では、こうした「兄弟の伴侶による介入トラブル」を避けるにはどうすればよいのか。中村弁護士は四つのポイントを挙げています。







