「お客さま、当ホテルは多くのビジネスパーソンの皆さまにご利用いただいております。その中でも、お約束の時間を守っていただくことが、すべてのお客さまに快適にご利用いただくための基本だと考えております」
「それなら、せめて通常料金との差額だけにしてください。5000円は高すぎます」。桃井は要求した。
「申し訳ございませんが、超過料金は当ホテルが定めた規定でございます。これは私個人の判断で変更できるものではございません」。山本は断固とした態度を崩さなかった。
いくら「なぜ」と聞かれても
それ以上の回答はない
「あなたの上司を呼んでください!」。桃井は声を荒らげた。
「この件に関しましては、私が責任者として対応させていただいております。当ホテルとしての方針をお伝えしておりますとおり、超過料金につきましては規定に基づくものでございます」。山本は冷静に答えた。
「なぜ支配人は出てこないんですか?」
「誰が対応するかは当ホテルが決めることでございます。この件に関しましては、私が責任をもって対応させていただいております」。
桃井は一瞬言葉に詰まったが、すぐに「それなら、もう二度とこのホテルは使いません。SNSにも投稿します」。と脅すように言った。
「お客さまのご判断は尊重いたします。ただ、当ホテルとしましては規定に基づいて対応しております。5000円の追加料金をお支払いいただくか、お支払いいただけない場合は、残念ながら法的手続きを取らせていただくことになります」
山本は冷静かつ断固とした態度で言った。
桃井は山本の毅然とした態度にたじろいだ。「そこまで言うのなら……」と彼はしぶしぶ財布を取り出した。
「もう二度と使わないからな」
「ご理解いただきありがとうございます。おかげさまで当ホテルは規律ある運営を続けることができます。どうぞお気をつけてお帰りください」。山本は丁寧に頭を下げた。
桃井は不満げな表情で支払いを済ませた。山本は終始穏やかな表情を保ちながら、チェックアウト手続きを完了させた。
桃井が去った後、入江は山本に近づき「見事な対応でした」と声をかけた。
「ありがとう。規定はまげず、でも丁寧に説明する。これが基本だよ」。山本はほほ笑んだ。







