「お客さまがお選びになったプランは、10時チェックアウトの特別割引プランでございます。チェックアウト時刻を過ぎた場合、当ホテルの規定では1時間ごとに2500円の追加料金をちょうだいしております」。山本ははっきりとした口調で説明した。

「なぜそんなに高いんですか?納得できません」。桃井は声を荒らげた。

「こちらの料金体系は当ホテルの経営方針に基づいて決定されたものです。チェックアウト時刻の厳守はお部屋の準備や次のお客さまのご案内のために重要なポイントとなっております」。山本は毅然とした態度で答えた。

「そんな説明、チェックイン時にありましたか?」。桃井は詰め寄る。

「こちらの規定はチェックイン時にお渡ししている利用案内に明記されておりますし、予約サイトにも記載がございます」と山本は冷静に答えた。

「なぜ」をたたみかけて
引き下がらない客

「そんなものは見ていません。なぜ目立つように掲示しないんですか?」

「お客さまへのご案内方法については、常に改善を心がけております。ただ、規定についてはご利用いただく際の重要事項として、お客さまご自身でもご確認いただくものとなっております」。山本の対応は一貫していた。

「私は緊急のオンライン会議があったんです。それなのに、途中で客室係が勝手に部屋に入ってきて、会議が中断されました。なぜ確認もせずに入るんですか?」。桃井は別の不満を持ち出した。

「10時を過ぎてのご滞在について事前にフロントへのご連絡がなかったため、チェックアウト済みと判断させていただきました。お客さまにご不快な思いをさせた点については深くおわび申し上げます」。山本は謝罪しつつも、状況を説明した。

「今日は満室ではないでしょう?なぜ柔軟に対応できないんですか?」

「本日の予約状況にかかわらず、当ホテルではすべてのお客さまに同じ規定を適用させていただいております。特定のお客さまだけに例外を設けることは公平性を欠くことになりますので」。山本は理路整然と答えた。

「なぜそこまで融通が利かないんですか?ビジネスパーソンの事情も考慮すべきでは?」。桃井は引き下がらなかった。