「カスタマーハラスメント」という言葉が世の中に定着写真はイメージです Photo:PIXTA

企業を悩ませる「カスタマーハラスメント」。顧客や取引先からの苦情や指摘には真摯に対応すべきものの、従業員に過剰な負担や不当な忍耐を強いることがあってはならない。では、悪質な苦情にどう備え、対応する従業員のスキルをどう高めるべきか。組織として、いかに従業員を守りながら適切に対応するか――その実践的なヒントを紹介・解説する。※本稿は、日本能率協会コンサルティング編著『実践カスタマーハラスメント対応ケーススタディ』(経団連出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「2時間5000円」の
追加料金に目を剥いた客

 フロントカウンターに立つ桃井秀樹は、請求金額に目を見開いた。「追加料金が5000円?ちょっと待ってください、何かのまちがいですよね」。桃井は不満げにフロントスタッフの入江由紀に尋ねた。

「お客さまがご利用になったプランは10時チェックアウトのエコノミープランとなっております。現在12時ですので、規定により2時間分の追加料金をちょうだいいたします」。入江は丁寧に説明した。

「そんなバカな。通常のチェックアウトは12時でしょう?それなのに2時間遅れたからといって5000円も取るのは理不尽じゃないですか」。桃井の声には明らかな怒りが含まれていた。

 入江は一瞬バックヤードを見た後「少々お待ちください」と言って、マネジャーを呼んだ。すぐにフロントマネジャーの山本健太が現れた。

「お客さま、フロントマネジャーの山本でございます。本日はご利用いただきありがとうございます」。山本は穏やかな表情であいさつした。

「マネジャーさん、5000円の追加料金は高すぎませんか?通常の12時チェックアウトとの差額は1500円ですよ」。桃井は不満を直接ぶつけた。