ベビーカーを押したゲストや、車椅子のゲストが使用するため、1組当たりの利用時間が長い。レストルームの前に列ができることもしばしばあり、そんなとき私は順番を待っているゲストに積極的に話しかける*ようにしていた。

「どちらからいらっしゃったのですか?」
「栃木県から来ました」
「遠方からありがとうございます。今朝いらっしゃったのですか?」
「いえ、昨日の夕方にバスでこちらに来て、ディズニーランドホテルに泊まりました」

 キャストと話すのを喜ぶゲストも多く、そこから会話が弾んでいくこともよくあった。

「いつもより少し混んでいますが、あともう少しだと思いますので、お待ちください」

 ここの担当ほどゆっくりとゲストと触れ合える場所はない。この多機能レストルームの担当は、私の好きな仕事だった。

 多機能レストルームは誰が使ってもいい。とはいえ、そこしか使えない人のために空けておくのが望ましい。多機能レストルームの前にキャストが立っていると、抑止効果*となり、みなさんマナーを守ってくれる。

 しかし、そこに誰もいないと、どうしてもルーズになる。

 私が休憩から戻ってくると、多機能レストルームの前に車椅子のゲストが待っている。聞くと、もう10分以上も待っているのだという。

「お待たせして申し訳ありません。今日は祝日なので相当混んでいますね。ところで、どちらからいらっしゃったのですか?」

 いつものようにそんな話をしながら待っていると、さらに数分して中から40代の女性が出てきた。目の前で待っている車椅子の人と私を見ると、気まずそうにあわてて立ち去った。

 10分以上も独占して使用するというのはマナーに反している。とはいえ、彼女もなんらかの事情があったかもしれず、注意するわけにもいかない。

 国土交通省の調査*では、多機能トイレで待たされた経験のある車椅子利用者は94%にのぼり、さらに待ちきれず使用をあきらめた経験がある人が74%にもなるという。

 一般社会でも難しい問題は、夢の国でもまたなかなか難しい問題でもあるのだ。