ハード面としては、バスや電車などの公共交通に障害者をサポートする先進的な設備が揃っていることが挙げられる。エレベーター・エスカレーター、自動ドア、広い出入口、点字・誘導ブロック、音声案内、多機能トイレなど多数ある。
ソフトの面とは、政策と教育の両輪である。小中学校では「障害のある人への理解と共生の心」を育てる教育を行い、車いすやアイマスクの体験指導を実施し、特別学級の生徒との共同学習など、おそらく日本人は幼少期からすでに「障害者」と共に過ごすことに慣れている。そのため、国民全体に障害者への理解と尊重の理念が浸透しているのだろう。
個人的に強く印象に残っているのは、ある中国の障害者事業団体が日本の公立小学校を視察した時のことだ。校門の前に待機していた、特別学級の生徒用の福祉車両が何台も並んでいるのを見て、「これはまるでVIP待遇じゃないか!」と中国人一行は驚嘆していた。中国では、政府高官や大企業の経営者などが乗る車が外で待機することはあっても、一小学生のためにこんな待遇はありえない。こんなに手厚い支援が行われているとは、彼らにとっては想像の範囲外だったようだ。
問題の本質はどこにあるのか
今回の鄭氏の騒動について、筆者はある中国人の福祉関係の専門家に見解を聞いてみた。彼はかつて、一緒に日本の障害者施設を見学したことがある。
「我々の日常の中では、障害がある人をほとんど見かけない。道路には点字ブロックが設けられてはいるものの、形だけのもので、実際に利用されている場面はまず見たことがない。ほとんどが自転車やバイクに埋め尽くされているからだ。
経済が著しく発展し、現代都市があちこちで建設されて、公共空間のバリアフリー化が進んでいるのは事実だ。しかしそれ以前に、障害者に対して社会全体の意識を変えないと、何も変わらないと思う。事実、今回の鄭さんの一件を受けて、『障害者は、外出すべきではない。他人に迷惑をかけるから』という論調が多かった。これは、中国社会に障害者への差別と排除が根強く存在していることを示している。







