これに対し、日本の障害者は、普通に生活できている。その理由は、日本という社会は、障害者や高齢者などいわゆる『弱者』を社会の一員と見なしており、設備が先進的なだけではなく、その人の人権や尊厳を尊重する世界観があるからだ。言い換えれば、障害者が普通に生きられる社会環境が作り上げられているからだ」と、彼は感慨深く語った。
日本の街のつくりは弱者に優しい
つい先日、出張で中国の西安や上海に行く機会があった。十数年ぶりに訪れた西安は目を見張るほど発展しており、西安のシンボルである「大唐不夜城」は夜11時までライトアップされていた。また、上海は中国でもっとも先進的な都市である。高層ビルが建ち並び、夜景は美しく、地下鉄の規模は世界一といわれる。
上海の地下鉄駅の9割には障害者用のエレベーターが設置されているが、場所も表示もわかりにくく、なかなかたどり着けない。また、地上に出れば、歩道はシェアバイクに埋め尽くされていたり、むやみにデコボコしていたりして歩きにくい。車道と歩道の間の段差は必要以上に高く、健常者でも歩いていて転びそうになることがある。ましてや、車椅子の人が1人で移動するのはほぼ不可能といっていい。そして実際に、西安でも、上海でも、街で障害者の姿を見かけることはなかった。
一方、日本の街の歩道は、バリアフリーな設計で、車椅子でも通れるところが多い。不要なデコボコや段差が少なく、実は人に優しくできているのだなと改めて思った。
上海の歩道。黄色いシェアバイクがたくさんあったり、点字ブロックをバイクがふさいでいたり、歩道と車道の段差が大きかったりして、車椅子での移動は厳しい(筆者撮影)
中国の政府関連機関の直近の発表によると、現在、中国の障害者人口数は約8500万人で、総人口の約6%を占める。そして、高齢者人口は2億2000万人、総人口の15.6%である。
人は誰もが老いていく。体の自由を失う日が必ず来る。
深センは最先端のハイテク、テクノロジーが集まる現代都市として、世界的に名が知られている。しかし、この街では、障害者が人間としての尊厳や権利を保つのは不可能だった。
しかし社会の文明度とは、マイノリティーや弱者にとってどれくくらい生きやすいかで測られるものではないだろうか。そうではない社会は、例えどんなに技術が進んでいても、本当の文明社会とはいえない。
鄭氏が深センの空港で体験したことは、現在の中国の「キラキラした発展ぶり」とは裏腹に、社会の意識が未成熟であるという象徴的な事例となった。同時に、「社会が豊かになって、技術は進歩したのに、なぜ人への思いやりが失われてしまったのか?我々の住む社会は病んでいるのだろうか?」という問いを考えるきっかけにもなったのである。







