写真:エレベーター,車椅子,鉄道写真はイメージです Photo:PIXTA

車椅子ユーザー「さしみちゃん」が訴えるエレベーター優先使用ルールの実態と、その背景にある事業者の消極的な姿勢を伝えた10月2日公開の記事「『ほんっと嫌い』車椅子ギャルのエレベーター投稿に誹謗中傷が殺到…東京メトロは台湾に学べ」には大変多くの反響が寄せられた。今回は前回記事に対して寄せられた感想や、いくつかの疑問、反論について補足したい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

なぜ鉄道のエレベーターを
障害者専用にすべきではないのか

 詳細は前掲記事を参照いただきたいが、簡単にまとめると、以下の通りだ。

・エレベーターでしか移動できない車椅子やベビーカーユーザーが、国土交通省や鉄道事業者が「優先使用」としているはずのエレベーターに乗ろうとしても、健常者に譲ってもらえない実情がある。
・しかし、国交省や鉄道事業者は利用者のマナー・モラルの問題であるとして、「お願い」のポスターを貼る以外の積極的な問題解決を図ろうとしない。
・そこで台湾メトロが展開する「博愛エレベーター」の事例を参考に、エレベーター乗り口に「一般レーン」「優先レーン」を設けてはどうかと提案した。

 反応はさまざまだったが、残念ながら少数ではあるが「なぜ障害者を優先しなければならないのか」という主張もあったのが実態だ。バリアフリーやノーマライゼーションの観点から「啓発」すべきなのだろうが、聞き入れてはもらえないだろう。

 一つだけ指摘しておくと、優先使用ルールは既に存在し、各エレベーターに表示されている。筆者の主張や提案は「障害者を優先する」ことではなく、既存のルールに実効性を持たせるためにはどうすればよいか、ということだ。優先使用ルールが不当だと主張するのは自由だが、それは本件の反論にはならない。

 一方、優先ではなく「専用」にしなければ意味がないという声もあったが、バリアフリー新法のガイドラインが「エレベーターは、車椅子使用者の単独での利用をはじめ、車椅子使用以外の障害者、高齢者、ベビーカー使用者等、すべての利用者に対して有効な垂直移動手段である」としているように、エレベーターはあくまでも全ての利用者を対象とした設備だ。

 これは国が決めているから、というだけの話ではない。全ての利用者とは大きな荷物を持っていたり、たまたま体調が悪かったりなど、その日だけ「バリア」がある健常者も含まれている。

 関連して「自分には○○の障害があるが、優先対象になるのか」との反応もあったが、どんな障害であっても、障害者でなくとも、本人が必要と思えば利用できてしかるべきだ。どの程度の障害であれば対象か、どれくらい体調が悪ければ使ってよいか、などの線引きは不可能である。

 障害であると詐称する者が出るとの指摘もあるだろうが、それこそ法令レベルの話ではないのだからチェックはできない。ヘルプマークの着用で識別する考え方もあるが、自発的な着用であればともかく、障害者であるか否かをマーク(シンボル)で区別して判断するというのは危険な発想だ。誰でも必要に応じて利用できるように、あえて曖昧さを残しておくのがルールをうまく機能させる秘訣(ひけつ)だろう。