アベノミクスの失敗と同じ構図
「デジタル赤字」などの構造的劣化を解決できず
アベノミクスは、「第1の矢が金融緩和で、第2の矢が財政。それに続いて第3の矢である成長戦略」が掲げられた。しかし、異次元緩和などによる「金融一本足打法」ともいわれ、実際、第3の矢に相当する政策は、ほとんど行われなかった。
その結果、株価は上がったものの、日本経済は成長しなかった。日本は、いまや1人当たりGDPで韓国に追い抜かれ、OECD諸国の中でも平均より下位に沈んでいる。
高市政権の政策は、アベノミクスの構造的欠陥をそのまま踏襲しているように見える。これでは、日本は豊かにならない。1人当たりGDPという点での改善は見込めないだろう。
日本で成長戦略の不在が続いてきたことを最も象徴的に示すのが「デジタル赤字」だ。国際収支統計におけるデジタル関連収支は、2024年時点で約6.7兆円の赤字だ。14年の約2.1兆円と比べると、10年間で3倍以上に拡大していることになる。
デジタル赤字は、単なる貿易収支の問題ではない。日本の産業競争力・国際戦略に重大な課題があることを示している。
まず、日本企業の大部分がアメリカのグローバル企業が提供するクラウド基盤(Amazon Web Services(AWS)/Microsoft Azure/Google Cloud等)のサービスに依存している。このため、国内に知識と技術が蓄積されず、海外依存から脱却できない。
そしてAI時代では、データとアルゴリズム、そしてプラットフォームを支配する者が経済の付加価値創造を握るとされる。しかし、日本はその枠外に置かれている。このため産業の空洞化が進む。
それにもかかわらず、これまでの政府対応は、安倍政権の後も「デジタル田園都市国家構想」や個別補助金・サーバー立地支援といった表面的な取り組みにとどまっていた。クラウドデータとAI基盤を国産化し、大規模化するための抜本策・競争力強化戦略は十分とはいえない。
これが、成長戦略を実効性あるものにできない最大の原因になっている。
企業への資金投入は何度も失敗してきた
補助金主導の産業政策でなく知的インフラ投資を
こうした批判には、「成長戦略は実際に行われている。半導体企業ラピダスへの投資がその代表例だ」という声が上がるかもしれない。
確かに、政府はラピダスへの巨額支出を、成長戦略の取り組みの象徴のように位置付けている。しかし、問題はこれが補助金主導の産業政策に過ぎないということだ。
“国策企業”への資金投入は、2000年代のエルピーダメモリ以来、何度も行われてきた。しかし、その多くは技術競争で後れを取る結果となり、国際市場で失敗した。
補助金によって一時的に企業を延命させても、長期的発展の基盤となる人材育成、研究開発支援、それらを具体化する制度設計が伴わなければ、持続的な成長は実現できないのだ。
利益が出る可能性がある企業への補助金は、政治的には受け入れられやすい。しかし、長期的な知的基盤の形成にはつながらない。必要なのは、長期成長の基盤に対する投資だ。
こうした観点からすると、日本の現状で最も深刻なのは、民間企業への補助が拡大する一方で、研究と教育という知的インフラへの投資が削られていることだ。
直接には利益を生まない基礎研究こそが、未来の産業を生み出す源泉であるにもかかわらず、その部分が軽視されている。国家としての戦略は、逆立ちしていると言わざるを得ない。







