国立大学への交付金は減少
高等教育機関への支出はOECD平均以下

 成長戦略における国の役割は、利益が見込まれる民間企業への投資を補助することではなく、利益とは関係がない大学や研究機関の基礎研究と教育を援助することだ。それこそが、潜在成長率を支える。

 ところが、この面での日本の状況は全く絶望的な状態だ。

 例えば、国立大への交付金を見ても、25年度は総額で1兆784億円だった。04年の法人化時に比べると、13%減少している。一方、人件費や物価の高騰で支出が増えており、物価上昇などによって実質的に目減りしている。

 国立大学は設備を更新することができず、授業料の引き上げで苦慮している。国立大75校のうち多くが、改修が進まない老朽化施設を抱えている。こうした現状を変えていくことが必要だ。

 多くを外部資金で確保する仕組みとなっている研究費も、十分に獲得できている大学や分野はごく一部だ。

 こうした状況の下で、文部科学省は、物価や人件費の上昇を反映させ、教育や研究にかかる経費をより安定的に確保できる仕組みを目指すとしている。ただし、実施は28年度以降だ。

 国立大学は、民間企業が手を出しにくい基礎研究や人材育成の要であり、国家の競争力の源泉である。研究設備が老朽化し、若手研究者のポストが削減され、優秀な人材が海外に流出すれば、日本の「知の生産力」そのものが縮小する。

 高市政権もこのことへの認識が全くないわけではないようだ。首相の所信表明演説でも、イノベーションを起こすことのできる人材育成の重要性や、そのための「大学改革」や「科学技術・人材育成に資する戦略支援」が掲げられた。だが具体的に何をするのかは不明で、その後も動きはないままだ。

 OECDのデータによれば、日本の高等教育機関への支出のGDP比は加盟国平均を大きく下回る。高等教育機関(tertiary educational institutions)に対する総支出の対GDP比を見ると、20年で日本は1.4%だ。これはOECD加盟国平均の1.5%より低い。

 また、アメリカ2.5%、イギリス2.1%などと比較すると、かなり低い(OECD, Education at a Glance 2023, Table C2.1)。

 知的基盤が衰退すれば、いかなる「成長戦略」も持続し得ない。政府が「科学技術立国」を掲げながら、実際には交付金減額のようにその足元を削っているという矛盾が起きている。「大学の衰退=成長戦略の不在」そのものなのだ。

 真の成長戦略とは、利益を生み出す力を涵養することだ。その基礎が教育と研究であり、デジタル・AI時代における「知的インフラ国家」の形成なのだ。

 高市政権は、「成長戦略」を短期の投資促進策としてしか捉えていないという大きな誤りをしている。