2023年のブナ大凶作のときに
人里に下りてきた小グマが成獣に

 2025年の秋は東北のブナが大凶作だが、2年前の2023年の秋もそうだった。2023年度、死者数6、人身被害件数198、被害人数219と、クマ被害は過去最悪を記録した(死者数は2025年度更新)。翌年の2024年の秋は豊作で、クマ被害自体は比較的少なかったが――。

「実は、2024年の春先には、多くのクマが里に下りてきていました。前年の大凶作で『里に餌が得られる』と学んだからでしょう」

 その中には母グマに連れられてきた子グマも当然いた。そして子グマは2年で成獣となる。そこにまた、大凶作――。

「独り立ちした子グマが、再び里に現れた可能性が高いですね」と山内准教授は続ける。こうして、生まれたときから里に下りることを避けない「アーバンベア」の常態化は、人との接触の機会をいや応なしに増やしてしまう。

里に出てくるクマが
凶暴化しやすい理由

 そして、アーバンベアは山にいるときよりも、凶暴化しやすいのだという。

「里に出てくるクマの多くは、若い個体か、あるいは親子連れが多いです。こうした個体は興奮状態になりやすく、ちょっとしたきっかけで大惨事につながるおそれがあります」

 山内准教授はそう指摘する。美味しい餌があるとはいえ、元来臆病で警戒心の強いクマにとって人里は、常にストレスのかかる環境だ。突然の人との遭遇や、車の音などの刺激に驚き、暴走してしまうケースが少なくない。

クマは驚くと身を隠そうとして
暗がりに逃げ込もうとする

「今年の9月13日の午前6時35分頃に、福島県南会津町の高齢者介護施設で、クマが窓ガラスを割って侵入するという事例がありました。クマは驚くと身を隠そうとする性質があり、木や草むらがない市街地では、建物の中や暗がりに逃げ込もうとします。おそらく人や車など何かに驚いてパニックになり建物の中に逃げこもうとして、透明なガラスがあるとわからず突っ込んだのではないかと思います」(山内准教授)

 こうした行動は、「攻撃」というよりは「恐怖による混乱」に近い。10月30日に岩手県雫石町の公民館でもクマが自動ドアに突っ込んだが、公民館が開く前の午前6時25分頃だったため、建物内は暗い状態だった。暗がりに逃げこうもとしたのだろう。

「クマで一番怖いのは、興奮させたり、パニック状態にしてしまうことです。そうなると、視界に入る人を次々と襲い始めることがある」(山内准教授)

 とくに秋から冬眠前にかけては、食料を求めて神経が過敏になっている時期。空腹でイライラしているクマは、わずかな刺激でも暴走しかねない。

「市街地でクマと遭遇した場合、クマとの間に自転車や建物といった障害物を間に置いて、直接突進されるのを避けることが重要です。安全を確保するため、近くに建物や車があれば素早く避難したほうがいい」という。