子連れの母グマは
無条件で襲ってくる
さらに、子連れの母グマは別格だ。
「子グマが近くにいると、母グマは子を守るために相手をほぼ無条件で敵とみなします。人が攻撃するつもりがなくても、少しの物音や動きに過剰反応してしまうんです」(山内准教授)
最近も、岩手県北上市では草刈り作業に向かっていた男性が、親子グマに遭遇して左足をかまれる事故が起き、現場近くで母グマとみられる個体と子グマの計2頭が駆除されている。
また、山菜採りを生業とする佐藤誠志さん(岩手県岩泉町)が山中で親子グマと鉢合わせた際、「子グマが木に登った。その時点で母グマが追いかけてきた」と語っており、木登りした子グマの傍らから離れようとしない母グマの攻撃性が浮き彫りになっている。
2025年10月22日、宮城県仙台市青葉区では、子グマ2頭がかかってしまった箱罠のそばから母グマが離れようとせず、最終的に親子3頭が駆除された。人に見つかり囲まれた絶体絶命の状態でも子を捨てて逃げようとしない。母グマの性質を象徴するような事例だった。
空腹、恐怖、ストレス、そして子を守ろうとする本能。こうした条件が揃ったとき、クマは冷静さを失い、凶暴化する――それが、いま各地で起きている“人を襲うクマ”の正体だ。
クマの行動は予測不能
個体差が極めて大きい
山内准教授は、「クマは、知能・学習能力ともに高い動物」とし、他の野生生物に比べても個体差が極めて大きく、「セオリー」が通じないという。
「GPS首輪をつけて追跡しても、シカやイノシシのように同じ行動パターンを取らない。100頭いれば100通りの動きをするんです。それほど性格も行動もバラエティー豊か。クマを研究していて一番難しいのは、こうした“予測不能さ”なんですよね」(山内准教授)
捕獲時に恐怖で震える個体もいれば、ドラム缶の中で突進して暴れる個体もいるという。しかし、どんな個体であっても、極度の緊張や恐怖にさらされれば、反射的に攻撃に転じる可能性が十分にある。臆病さと凶暴さは、紙一重のところに共存している。それがクマの本質であり、人間の側が忘れてはならない事実である。
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