彼はむしろ恵まれているはずなのに、愚痴が多い
「そうですね……彼は、上司から気に入られていて、他の人たちよりもかなり恵まれた立場にあると思うんです。それなのに仕事や職場に対する不満が多くて、しょっちゅう愚痴っている。まるで上司や職場のあら探しをしてるみたいに。恵まれている点もたくさんあるはずなのに……」
「他の人より恵まれた立場にあるんですね。それにもかかわらず、まるで粗探しをしているみたいに不満を口にする」
「そうなんです。彼の話を鵜呑みにする人がいたら、よっぽどひどい上司でひどい職場だと思っちゃうんじゃないかな。それほど不満たらたらなんです」
「でも、実際はそんなにひどくない、むしろ恵まれていると」
「はい。もっとひどい目に遭っている同僚たちは他にもいるのに、なぜ彼はあんなふうにいつも不満だらけで愚痴っぽいのか。彼の頭の中はどうなっているのか。それが理解できなくて……愚痴につき合うのも疲れるし、もううんざり、っていうのもあるんですけど、そんな悪い職場じゃないのに、しかも彼は非常に恵まれた立場にあるのに、どうしてあんなふうなのか、それが理解できなくて……」
その謎を解くには、記憶の心理メカニズムについて知っておく必要がある。
できごとや境遇でなく、日頃の気分が愚痴を生む
愚痴っぽい人は、ほんとうに嫌な目にばかり遭っているのだろうか?この事例のように、どうもそうではなさそうなケースは少なくない。
結論からいうと、愚痴っぽい人は、けっして嫌な目にばかり遭っているわけではない。ポジティブなできごともたくさん経験している。それにもかかわらず、経験するさまざまなできごとの中から、ネガティブなできごとばかりを選んで記憶しているのである。そして、わざわざネガティブなできごとばかりを選んで思い出しては嘆いているのだ。
ただし、本人にはそのような自覚はない。自分は嫌な目にばかり遭っていると本気で思い込んでいる。なぜなら、振り返れば嫌な記憶ばかりが思い出されるからだ。
そこに作用しているのが、記憶に関する「気分一致効果」という不思議な心理法則だ。







