気分一致効果とは、そのときの気分に一致する感情価を持つ事柄が記憶に定着しやすいという心理法則のことである。

 愚痴っぽい人は、常にネガティブな気分で過ごしている。そのため、ポジティブなできごともネガティブなできごとも両方経験していても、気分一致効果により、自分の気分に馴染むネガティブなできごとばかりを記憶してしまうのだ。

気分一致効果を示すおもしろい実験

 この気分一致効果は、さまざまな心理学の実験により証明されている。たとえば、心理学者バウアーたちの実験は、次のようなものである。

 ある教室では、楽しいことを思い出させて幸せな気分に誘導する。別の部屋では、悲しいことを思い出させて悲しい気分に誘導する。そうしておいて、それぞれの教室の人たちに、同じ物語を読ませる。その物語には、楽しいエピソードや悲しいエピソードがいろいろと描かれている。

 この実験のポイントは、教室によって記憶している内容に違いがあるかを検討するところにある。

 翌日になったら、前日に読んだ物語について、思い出すことを箇条書きでできるだけたくさん書いてもらう。その結果、楽しい気分で読んだ人たちと悲しい気分で読んだ人たちで、思い出すエピソードの量に差はみられなかったものの、思い出す内容には顕著な違いがみられた。

 幸せな気分で読んだ人は楽しいエピソードを多く思い出し、悲しい気分で読んだ人は悲しいエピソードを多く思い出したのだ。

 ここからわかるのは、「自分の気分に馴染むエピソードは記憶に刻まれやすく、自分の気分にあまり馴染まないエピソードは記憶に刻まれにくい」ということである。

 このような実験結果から言えるのは、記憶というのはとても主観的なものであり、私たちは目の前の現実を自分の気分に合わせて都合よく歪めて記憶しているということだ。ここに愚痴の多い人の心理メカニズムを解明するヒントがある。

 気分が異なれば、同じ物語を読んでも記憶していることが違うのである。同じ話を聞いても覚えていることが違ったり、同じ場に居合わせたはずなのにそこで起こったできごとについての記憶にズレがあったりするのは、日常生活でよくあることだが、そこにもこの気分一致効果が働いているのだ。