
三菱商事が洋上風力発電事業から撤退した。その数日前に、鹿島建設の計画離脱が報じられた。政府は、発注した事業者と綿密にコミュニケーションを取っていれば、別の方策が取れた可能性もあっただろう。3海域で事業者を再公募する見通しだが、不確定な要素は多い。電力料金の値上がりに対しては消費者も敏感になっている。一刻も早いエネルギー政策の練り直しに、絶対欠かせない視点とは?(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
三菱商事が洋上風力発電から撤退ショック
8月27日、三菱商事は洋上風力発電事業からの撤退を発表した。2021年、同社は中部電力や米GE系のエネルギー企業とコンソーシアムを組み、3海域(秋田県能代市と三種町および男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖)の洋上風力案件を落札した。
しかしその後、ウクライナ戦争などによる想定外の資材高騰で、プロジェクトを予定通り履行することが困難になった。その結果、同社は多額の違約金を払ってでも、プロジェクトから撤退することを選択した。
今回のプロジェクトの頓挫の影響は大きい。三菱商事で難しいと、他の企業も当然厳しいはずだ。わが国のエネルギー政策の柱の一つとみられていた、洋上風力発電構想は重大な岐路を迎えたといえる。
本年2月の「第7次エネルギー基本計画」で、政府は40年度の発電源構成の4~5割を再生エネルギーにする計画を示した。その中で、太陽光と並んで重視されているのが洋上風力だ。しかし大手事業者の撤退で、主要計画の一つである洋上風力発電の先行きが不透明感を増し始めた。
AI(人工知能)産業が成長するにはデータセンターが必要で、電力需要の増加に、いかに対応できるかは重要な課題だ。また、エネルギー政策の行き詰まりが本格化すると、家計の電力料金負担にも影響が及ぶことになる。
今後、政府は早急にエネルギー政策を練り直す必要があるだろう。AI戦略に必要な電力供給の確保と同時に、家計に大きな負担をかけない電力供給網の構造が喫緊の課題となる。あまり時間は残されていない。