「労務不能」とはどういう状況を指すのか
橋田「すごい制度です。この稲垣さんは、うつ病を理由に2カ月前から休職しています。優秀なシステムエンジニアなんですがね。担当医師から、労務不能の証明も受けていたのに……」
カタリーナ「ちょっと、待って。ここでいう“労務不能”とは、単に仕事ができないというだけでなく、彼女がこれまで従事していた業務ができないということ。医師の意見等を合わせた総合的な判断が求められるの。ハンドメイドの作品づくりが少しくらいできたとしても、直ちに支給停止になるとは限らないわ」
橋田「じゃあ、休職中に副業していてもいいってことですか?」
カタリーナ「就業規則で一定のルールを設けていれば、それは就業規律の問題にはなるわね」
橋田「当社は、副業を禁止してはいませんが、副業する場合は許可制になっています。これは、明確なルール違反では?」
カタリーナ「ただ、これを副業とみなすかどうかね。仮に医師の指示の範囲で、療養の一環として軽い活動をしているなら、それは労務とは言えないんじゃないかしら」
橋田「どういうことですか?」
カタリーナ「ハンドメイド作品の販売が“業として”行われているかはポイントね。たとえば、月に数万円の定期収入や注文対応があれば業務性が強いと考えられる。けれど、数点の作品を趣味の延長で販売しているようならどうかしら」
橋田「川原さん、そのあたりはどうなの?」
橋田は同席していた川原に、発言を求めた。
川原「そう言われると……出品されていたハンドメイド作品は4~5個くらいで、価格も1000円から2000円程度でした」
カタリーナ「それで、利益は出るかしら?」
川原「材料費だけでも結構かかっていると思いますし、正直、大した利益はでないんじゃないかと」
橋田「そうか……」
橋田は深いため息をついた。川原はうつむいている。
カタリーナ「なるほど、“業として”行われているとは言いづらいということね。もちろん、世間では副業として、ハンドメイド作品の販売を継続的に行っている人もいるから、今回のケースと一緒くたにしない方がいいけれど」
橋田「じゃあ、我々はどう対応すれば?」







