ハマスへの期待は
自治政府への失望の裏返し
「アッバスは姿の見えない独裁者になった」。1980年代の第一次インティファーダ(反イスラエル闘争)で活躍したパレスチナ人哲学者サリ・ヌサイバは自治政府の現状をそう表現する。
アッバスは任期満了後も自治政府トップに君臨し、評議会が事実上活動停止のなか、議長令の発出などで政策を遂行する。ヌサイバはアラブメディアに「アッバスが1人で決めているのか、周辺の誰かに相談しているのかさえ分からず、政策決定過程があまりにも不透明だ」と指摘した。
市民の不満が高まるなかで発生したのがニザールの暴行死事件だった。パレスチナ人記者の1人は「自治政府は今や占領者イスラエルの下請け機関になりました。パレスチナ人はイスラエルの占領に加え、自治政府にも抑圧され二重苦に直面しているんです」と話す。
そんな声を反映するように、世論調査ではアッバスの支持率は極度に低下している。
シンクタンク「パレスチナ政策研究センター」(本部・ヨルダン川西岸ラマラ)の調査では、多数の市民が「アッバスは辞任すべきだ」と主張。辞任を求める市民の割合は2020年12月の66%から2022年6月には77%に上昇し、さらに2025年5月には80%になった。
『パレスチナ占領』(平野雄吾、筑摩書房)
ハマスがパレスチナ人の間で一定の支持を得ているのは――ガザ戦闘後の惨状を経てもなお――、自治政府への反発の裏返しでもある。
デモに積極的に参加するヨルダン川西岸北部ナブルス郊外の人権活動家マヘル・アハラス(50)は「自治政府には市民を弾圧するしか手段がないのでしょうが、自由を抑圧する人物が指導者になるべきではありません」と訴える。
アハラス自身、イスラエル軍にも自治政府の治安部隊にも何度も拘束されている。
「パレスチナ人の自由や生活を破壊するという点で、イスラエルも自治政府も同じなんです。アッバスを退陣させなければ、イスラエルの占領も終わらせられません」と強く訴えた。







