「ヒューマニティー」をどのように取り入れていくのか
「救急救命VR(仮想現実)」による臨床学習 写真提供:日本医科大学
弦間 私立医大の合格率が高い鉄緑会などでストイックに学ぶというトレーニングをしてきた学生は優秀だとは思うのですが、画一的な人が増えている印象です。医師としてどうなのか、その点がAI時代に危惧されます。
記憶力や思考力は必要ですが、それらはAIがサポートしてくれます。それよりも、人生観や価値観が異なる患者さんと、状況に応じて寄り添い、その感情をくみ取りながら対応できるかということが、これまで以上に大切になってくると思います。ヒューマニティーをどう取り入れていくのか。
――それは前回お話しいただいた入学者選抜でも問われる点ですね。
弦間 本学は2次で個別とグループの面接を行います。明らかに医師に不向きと考えられる人の点数は低くなりますが、それでもこういう人も入ったのかと、入学後に分かることもあります。
――「早稲田」の学校推薦枠にもそうしたヒューマニティー重視の側面がありそうです。
弦間 これまで、教養のことを繰り返し強調してきたのは、人間性をどのように深めるかということからで、普通の高校生活を送ることで、部活動などを通して人間関係を経験しておいてほしいからです。このあたりは、学校推薦枠では最低3年間以上見ていただいているので解決します。
――某難関男子校に行ったとき、清掃している女性に「こんにちは」とあいさつしましたら、「最近うちの先生、あいさつしないでしょう」と言われました。確かにそういう傾向があるのかもしれません。
弦間 例えば部活動や恋愛もそうですが、基本的な人間関係は高校のうちに経験しておいてほしい。大切なのはふられることです(笑)。
――難関校の多くは男子校と女子校です。競走馬の遮眼帯みたいなもので、勉強するうえでは効率はいい。
弦間 私は都立富士高校の出身です。東京府立第五高等女学校が前身ということもあって女子が強い(笑)。だいぶ鍛えられました。
本学の学是は「克己殉公(こっきじゅんこう)」、すなわち“己に克ち、広く人々のために尽くす”ことであり、教育理念として「愛と研究心を有する質の高い医師と医学者の育成」を掲げています。
「受験時代の忘れ物を取りに行く」と言っていますが、受験勉強優先で中高で経験できなかったような豊かな人間性を育むことが、AI時代にはより重要になっていくと思います。
――ところで、同窓会の人数を見ますと、圧倒的に東京と神奈川に集まっていますね。
弦間 地方の同窓会は人数が減っています。本当は全国から学生が入って来てほしいのですが、1970年以降、36大学が新設されましたが、うち東京は2大学のみです。地方にも私立の医科大学が増えました。多様な学生を採る一環として、福岡会場(福岡市)での1次試験も実施しています。24年は5人合格者が出たものの、入学したのは2人にとどまり、25年は入学者ゼロでした。
――多様性を確保するというのは大変なことですね。
弦間 はい。医師にとって本質的なミッションとは、人の心を理解し、寄り添うことだと思います。多様性の理解が大切で、そうした学生にこれからも入ってきてほしい。
日本医科大学の建学の精神は、貧しくしてその上病気で苦しんでいる人々を救うのが、医師の最も大切な道であるという意味の「済生救民」。創設者である長谷川泰の志を受け継ぐ









