「最後の切り札」じゃなかったの?米中首脳会談で習近平がトランプに“敗北”したと言えるワケPhoto:Andrew Harnik/gettyimages

異例の展開となった
米中首脳会談

 10月30日に韓国で行われた米中首脳会談では、中国がレアアース輸出規制を1年間凍結し、アメリカ産大豆の購入を再開するなど、かつてない譲歩を見せた。メディアの中には「アメリカが譲歩した」「中国が勝利した」「トランプが負けた」などと報じるものもあったが、実際には逆である。

 今回の会談は、アメリカの戦略的勝利であり、中国は経済・外交の両面から「時間稼ぎ」を選ばざるを得なかったのである。背景には、中国の最後の切り札であるレアアースが徐々に効力を失いつつある現実と、人民解放軍の腐敗による構造的な脆弱(ぜいじゃく)さがある。

 今回の首脳会談では、トランプ大統領と習近平国家主席が2年ぶりに対面した。議題は貿易、半導体、レアアースという3つの「核心分野」であり、いずれも国家の安全保障と産業競争力を左右する重要テーマである。

 ただし、ここでは台湾問題やウイグル問題などの安全保障や中国の人権問題については触れられなかった。そういう意味では、最初から「一時休戦ありき」の会談だったと言える。

 米中関係はこれまで「相互依存」と「対立」の狭間で揺れてきたが、今回の会談はその均衡が崩れ、相互依存を続けることを確認するものだった。

 かつてアメリカは金融大国として、中国市場を取り込みながら中国投資によって莫大な利益を得てきた。だが今や、半導体やAIなど先端分野では、中国を国家安全保障上の脅威とみなし、制裁と包囲網を重ねている。

 トランプ大統領の最大の目標は、中国の「世界の工場」の機能を解体して、重要な製造業をアメリカに取り戻すことにある。

 中国側は、アメリカとの「協力」のもと、技術的な実力を蓄えて長期的にアメリカに代わる経済圏の構築を試みたが、2010年代に始まる経済成長の減速と政治統制の強化がその努力を阻んだ。

 こうした中での会談は、もはや交渉ではなく、中国がいったんアメリカの力を認めて、国内製造業の立て直しというトランプ政策の柱を邪魔しないと確約することで「休戦」をもぎ取るしかなかったのである。